ヌラッカの涙
ヌラッカとキリオの馴れ初めは、ユウカがここに来る十年前に遡る。
ヌラッカ自身はその時点でここに来てもう三百年ほどになっていたが、正直、ヒューマノイド型の人間達にはあまり馴染めずにいたのだった。それにその頃は不定形生物らしく決まった形をとっていなかった。
そんな時、この公園のこのベンチで今のように黄昏ていたヌラッカに、キリオが声を掛けてきたのである。
『どうしたんだい?。こんなところで。良かったら僕が話し相手になるよ』
最初はその馴れ馴れしい態度に戸惑っていたヌラッカだったが、ここで何度か顔を合わせるうちにあまりにその態度が<普通>だったことで、キリオに対して興味を抱いてしまったのだった。なにしろ、他の人間達は不定形生物の自分に対してはどうしても戸惑いを隠さなかったのだから。
無理もない。どこ見て話せばいいのかも分からないし、何を考えてるのか表情から読み取ることもできない。しかも不定形生物だから元々のメンタリティが全く違う。またヌラッカ自身、決まった形しか取れない人間の心理が理解できなかったのだった。
なのにキリオは、そういうことを一切感じさせなかった。ヌラッカの話に耳を傾け、言うことにきちんと相槌を打ち、どこを見ていいのか分からないのなら全体を見ればいいとばかりにヌラッカ自身を見てくれた。そんなキリオに対し、ヌラッカはいつしか好意を抱いていたのだった。
そして、
『私、今のアパートに友達いない……』
と打ち明けたヌラッカに対してキリオは、
『じゃあ、僕の部屋においでよ。僕、君のことが気に入ったよ』
と屈託なく笑ってくれたのである。そうしてヌラッカはキリオの部屋に住むことになり、彼女の好みの女性のタイプを再現しようと今の姿になったのだった。そう、キリオはヌラッカが好みの女性の姿をしていたから誘ったのでなく、本来の姿のヌラッカを好きになってくれたのだ。
「あ……」
それを思い出したヌラッカの頬を涙が伝った。
「キリオ……」
両手で顔を覆い、ヌラッカは体を震わせた。それはもう、完全にユウカ達ヒューマノイド型の人間の仕草そのものだった。長年その形を取り続けたことで、すっかり身に着いていたのだ。
日が傾き出した頃、ヌラッカとユウカとガゼの前に、人影が現れた。キリオだった。
「じゃあ、帰ろうか」
いつもと変わらない軽薄な感じで声を掛けるキリオだったが、ヌラッカは両手で顔を覆ったまま何度も頷いた。そのヌラッカを抱き締めながら、キリオはユウカ達を見た。
「ありがとう。ヌラッカの話を聞いてくれて」
ユウカ達に話したことで、ヌラッカは当時の気持ちを思い出したのである。
そして話を聞くことでそれを思い出させてくれたユウカ達に、キリオは礼を言ったのであった。




