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第一〇七六四八八星辰荘へようこそ

「アーシェス…」


受け取った手紙を読んだユウカは、ポロポロと涙をこぼし彼女の名を呟いた。いずれこうなることは、ここで暮らしているうちに自然に知った。だから覚悟もしていたつもりだった。だけど、ここに来て初めて声を掛けてくれて、たくさんたくさん面倒を見てくれて、数えきれないくらいの恩を受けた彼女がそれを選んだことは、やはり悲しいし辛かった。本当の死ではないと分かってはいても、彼女の笑顔を直接見て、その温かい手に触れることはもうないのだと思えば、自然と涙が溢れてきてしまうのだ。


ユウカがここに来てからもう五十年が過ぎていた。それでも彼女はまだ、十四歳当時の姿のままだった。地球にいればすでに孫がいても何もおかしくない年齢だが、ここでは気持ちさえほとんど十四歳当時のままである。ガゼも、メジェレナも、レルゼーも、他のアパートの住人達も、なにも変わっていない。


いや、厳密に言うなら変化はある。ヘルミがアパートを出て行ったのだ。そして今は結婚し、パートナーと共に戸建て住宅に住んでいるそうだ。ロックバンドのヴォーカルであることは変わりないが。


ただ、先日、一日限りだがレルゼーのバンド、<レルゼリーディヒア>とセッションを行い、そこでレルゼリーディヒアの演奏をバックにあのバラードを歌うという姿も見られたのだった。


決して愛想が良くなったわけではない。今でも攻撃的な目で他人を睨み付ける癖は治っていない。だが、ケンカはあれ以来やってないらしい。しかも、パートナーの前では穏やかな表情も見せるという話もちらほらとはある。ただし、それを本人に確認しようとすると、凄まじい殺意が込められた視線を向けられるらしいが。


<ガウ=エイ=アヴェンジャー>と<レルゼリーディヒア>のライブセッションの日は仕事があって行けなかったユウカだったが、その時のライブの模様を録画した映像を配信していた番組についてはしっかりとチェックした。それを生で見に行ったメジェレナは、感極まった様子でライブ映像を見ながらまた涙を流してたりした。


ユウカはユウカで、ヘルミにバンドに帰ってきてほしいというレルゼーの願いが一時だけでも叶ったことも加えて胸がいっぱいになる想いだった。その時、ドアがノックされた。


「はい」と応えながらドアを開けると、そこにはシェルミが立っていた。そして彼女の隣には、初めて見る女性の姿があった。自分に似てはいるが、耳がかなり尖っているので地球人ではないとすぐに分かった。


「彼女の名前は、レンジェラニア・アルフォレニシス。新しく三号室に入ることになった方です」


その説明ですぐに分かった。アーシェスの後任のエルダーとしてのシェルミの初仕事なのだということが。


「初めまして。私は石脇佑香いしわきゆうか。ユウカって呼んでね。


第一〇七六四八八星辰荘へようこそ。歓迎します」


ユウカの温かい笑顔が、不安そうに佇むその女性を包んでいたのだった。


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