彼コン!〜恋のミラーボール〜
わたしのなまえはももこ。
お金がなくて家を出されたJKってヤツ?(笑)
なんだかんだでダンボール食って暮らしていけてるんだけど、、、最近変な男につけられてるんだよね。
変な男っていっても『とろけるチーズで服を作ってる』とか、『こたつに頭だけしか入れないタイプ』とか、そんなレベルじゃなくて、なんとその人は、髪の毛がないの!
そいつにつけられちゃってるもんだから本当に人生の大変さを思い知ってるトコ。
それとみんなには隠してたけどわたしってカツラなの。
カツラっていっても特殊なタイプじゃなくてただ単に光るヤツ?値段はヒミツ♡(笑)もしかして、あの変な男わたしの秘密に気づいてる?!そうだわ。きっとそう!カツラを奪おうとしてるのね。
でもそれだけはさせない。だって私、生まれたときから言い続けてたんだもん。
『たとえお金を奪われても、ファーストチッスを奪われても、トイレ中にトイレットペーパーを奪われても命を奪われても、カツラだけは奪われない!』ってね☆
カツラを奪うようなやつ、様子を見て始末しなきゃいけないわ。
でも今のわたしにはお金も武器もない。これじゃあ膝下から蹴り崩していくしかないの?どうしようわたし、どうなっちゃうの〜?!
とりあえずあいつの動きを観察するとするわ。ずーっと動かずにこちらを見ているみたい。私は驚いたわ。ずっと動かないからゾッとした。見てるだけなの?何を見てるの?もしかして、まだカツラかどうか半信半疑で、どうにかズレたりしないかをみてるんじゃないかしら?でも、それだったらきっともう少し近づいてもいいじゃない?表情すら変えないのはなんだか不自然。
彼があんまり動かないもんだから、時折私は彼を笑わせようと髪の毛をワックスでカチカチに固めて頭だけで逆立ちをしたり、ブリッジしながらコンタクトを装着したりしたわ。
それでも彼はピクリとも動かなかった。
そして気付いたの。ザラザラした灰色の肌。石だったのね、彼。
石と気づいたときの恥ずかしさといったら東京タワーの先っぽが唇に刺さるくらいのものなんだから!
私はずっと石に向かって逆立ちをしたり、ブリッジしながらコンタクトを装着していたの。
とりあえずお金がないわたしは、落ちてた納豆でピアスを開けることにした。いくらお金がなくても、女子高生なんだからオシャレしたいもの。
納豆でピアスを開けていたら、通りすがった男子高校生に「くさむヤツじゃん、それ」と言われた。「わたしはくさみなんて気にしないの。ほっといて!」そう言いながらつけてたコンタクトを飛ばしてやったわ。
カツラを奪われる心配がなくなった私は街を爽快に歩いてた。そんな爽快感とは裏腹に街の景色はぼんやりとしていて歪んでいた。通りすがる人はぶつかってくるし、車にはクラクションを鳴らされる。
思わずため息がでた。せっかく気分が晴れたのにな、、何も見たくなかった。というよりは何も見えなかった。
まるで一気に視力が低下したかのような感覚。そうだわ!
このぼんやりした景色も、人がぶつかってくるのも全部、視力が落ちたからなのね!!でも一体なんで?
ふふっまあ私のことだからきっと草をむしって食べてる途中に毒にでもあたったんだわ。みんなに嫌われたんじゃなかったんだ、と分かれば、目が見えない苦しさなんてちっぽけなものだった。
目が見えないし疲れてきたしここで休憩しよう、私はそう思い公園の木の木陰でブリッジをして休んでいた。
「お、おいお前!さっき落としたぞ、、」私の目に逆さまに映ったその人影はぼんやりとしていて誰だか認識出来なかったが、目を凝らしてみるとさっきの男子高校生ではないか。
「ありがと。別に頼んだわけじゃないけど。」私はぶっきらぼうな態度をとって彼が手渡してきたコンタクトを受け取り、目にはめた。視力が回復し、ブリッジの体制をやめ彼を見つめた。
「お、お前、名前はなんて言うんだよ」彼は私から目をそらしてそう言った。
「ももこだけど?」私は彼に肩パンをしながら答えた。
突然彼は肩を押さえながら崩れ果てた。どうやらインフルエンザのようだ。
私はすぐさま体制をブリッジに戻し、彼をお腹に乗せて病院へ急行した。そんな私に彼は言った。
『へえ。そうやって人を運ぶんだ。なんだか馬みたいだね。』
照れくさかった。まさかコンタクトを拾ってくれた人にそんなこと言われるなんて。
『べ、べっ別に嬉しくなんかないんだから!』
私は再びぶっきらぼうに返した。でも、正直このときは馬を意識してパカラッパカラッ!なーんて口ずさんじゃったんだけどね。(笑)
悲劇は突然起こった。本物の馬のような乗り心地を目指して急いで手を動かしていたら髪の毛を踏んでしまったの。
「痛い!ちょっとタンマ!」
彼にそう言うと私は彼をお腹に乗せてることを忘れ、無我夢中に立ち上がった。
「痛え。なにすんだ!」
私のお腹から落ち、地面に倒れた彼は強く私に向かって叫んだ。
「あちゃ〜〜ごめんごめん!乗せてたこと忘れてた」
そう言いながら彼のことを見下ろすと何故か彼は私を驚いた顔をして見つめていた。
「な、なんなの?!」
私が彼に言うと、彼は私の頭を指差しながらこう言った。
「ま、まるでDancing Party Night …!!」
そう、さっきの事故で私のカツラは頭から落ち、肩に乗っていたのだ。私の肩の上でカラフルに光り続けるカツラは私のツルピカ頭を照らしミラーボールのようになっていた。
近くにあった車の窓に映った自分の姿を見て私はつい踊り出してしまった。
「日本の未来は!」
「wow wow wow wow」
「世界がうらやむ!」
「yeah yeah yeah yeah」
彼と私は一晩踊り明かした。
そして、こんなにも気があうんだ、と私は実感した。
わたしたちはよくにてるわ!考えてること感じてることほんとに似てるね。
そう本当にそう思ってた。彼も私と同じ気持ちなんだろうって。でも彼は違った。彼は私を捨てた。
すべては金だった。
私は旅に出た。
1人でも生きてやろうと思った。食に飢えてたから、草を食べた。
そして馬になった。
今となっては全部甘酸っぱい思い出。
爽快に草原を走り回るのが私の使命なんだわ。パカラッパカラッ
Fin