つんでれらの苦悩
はじめまして。
さらさらの黒い髪は短すぎず、長すぎず。スラッとしているけど、身長は平均的。ふちなしの眼鏡が似合ってる。どこか中性的な容姿だし、身体も細身だけど、手は意外と大きい。そのくせ、指は長くて爪まできれい。
肌は白いし、インドアな感じなのに、体育委員。しかも応援団にも所属してる。教室でバカ騒ぎしてる他の男子みたいにうるさくはしゃいだりはしないけど、応援の時はビックリするくらい声がよく通る。
男女問わず友達がたくさんいて、誰ととでも話す。
大人びた雰囲気だけど、笑うと結構かわいい。
それが私の好きな人、吉岡 咲良くんだ。
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「吉岡、また長月さん見てるぜ。」
「バカ。長月さんが見てんのは俺だろ?」
「うわー。自意識かじょー!お前じゃない。お前だけはない。」
周りでいつもの三馬鹿が騒ぐ。
もうすぐ帰りのHRだ。しかも今日は金曜日。明日は休みだし、気が抜けたらしい。いつもより声がデカイ気がする。
「うるさいぞお前ら。巻き込まれる長月さんがかわいそうじゃないか。」
日誌を書き終わり、帰り支度をしながら注意する。ちなみにこいつらは教科書全部置いて帰る。そしてテスト前に泣きついてくるのがお約束だ。
「吉岡!お前、長月さんだぞ?」
「長月さんに気にかけてもらえるなんて、奇跡だろうよ!」
「…さくらちゃん、性欲ないの…!?」
うるさい。あとさくらちゃんて呼ぶな。
ちらりと長月さんに目を向けるが、彼女は友達と談笑中でこちらの馬鹿話に気付いていないようで、ほっとした。
確かアイルランドとロシアとフィリピンと日本のクォーターだとかいう彼女、長月リリーさんは恐ろしいほどの美少女だ。髪の毛も金髪とまではいかないが、明るくて柔らかな栗色で、肌は白いし、スタイルはいいし、男子からの人気は凄まじい。休み時間に隣のクラスの奴が特に用事もないのにふらふらとやってくることが増えた。わりとのんびりした気性の人間が多い土地柄のせいか、どろどろとした愛憎劇は繰り広げられてはいないが、時間の問題かもしれない。
まあ、俺には関係ないけど。
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「吉岡くん。」
廊下で吉岡くんを呼び止める。今日日直だった彼と、それを知って待っていた私しかこの廊下にはいない。校庭からは部活動に勤しむ生徒たちの声が遠く響いている。
心臓がばくばくして、指先が震える。でも、勇気を出さなきゃ。
「あ、長月さん。何か用?」
立ち止まって、振り返って、私を見る。見られてる。それだけでもう消えてなくなってしまいたいくらい恥ずかしくて、飛び上がりそうなくらい嬉しい。
「?…どうかしたの?」
怪訝な表情。小首かしげてる。かわいい。
違う!そうじゃなくて、私は勇気を出すって決めたの!
ゆっくり息を吸って、吐いて。顔を上げて、しっかり向き合う。
所在なさげにもじもじしてしまう指を誤魔化すために腕を組み、逃げ出さないように足は肩幅にひらいてしっかり立つ。
さあ、言うんだ。好きですって。付き合ってくださいって…!
「貴方のこと、嫌いじゃないわ。付き合ってもいいわよ。」
一瞬空気が固まる。
や、やっちゃった…!またやっちゃった!己の対人スキルの低さが恨めしい。思えばこの容姿と生まれのせいで散々いやな目に遭ってきた。自分を守るために私は、少々ひねくれてしまったのだ。ひねくれもののガイジンと呼ばれさらに対立はエスカレートし、引っ越しと転校を繰り返したどり着いたこの地は、なんとも居心地の良い場所だった。みんなのんびりしてて、ひねくれた心を解してくれた。
でも、すぐさま素直になれるわけもなく。
私は、いわゆるツンデレってやつになってしまった。
「…えーと…?」
吉岡くんが戸惑ってる。そうだよね、どんだけ上から目線だよって感じだよね。どうにか説明して分かってもらわなくちゃ…!
「分からない?恋人になってっていってるの。」
…どつぼーーー!違う!もっと、こう、可愛く言えないの!?『恋人にしてあげてもよくってよ』なんて言うよりは少しはマシだったかもしれない。でもそんなに変わらないかな!うん!しかも今気付いたけど、私腕組んで仁王立ちしてる!なにこれ!
「…本気で、言ってる?」
吉岡くんは、私の暴挙に怒った様子もなく、いつも通り落ち着いて見えた。ただ、私の気持ちを確認してくれた。
「もちろんよ。」
私の気持ちを、理解してくれただろうか。
好きなの。出会った時から、ずっと。
貴方が、貴方だけが、好きなの。
「ごめん。俺そういう、ツンデレって嫌いなんだ。」
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放課後、廊下で呼び止められて振り向けば、そこには長月さんがいた。
…苦手なんだよなー。みんなかわいいって言うし、確かに顔はかわいいんだけど、性格がなー。
いつも睨んでくるし、言葉が刺々しいし、三馬鹿はツンデレだーって喜んでたけど、俺はちょっとご遠慮願いたい。
マンガとかにもツンデレって出てくるけどさ、ありがとうとごめんなさいは基本だと思うわけ。人として。恥ずかしがりなのかもしれないけど、だからって言葉のチョイスをことごとく間違えて周りの人を傷つけたり、気を使わせたり、どこがいいの?って思う。
「貴方のこと、嫌いじゃないわ。付き合ってもいいわよ。」
なにこれ。めっちゃ嫌そう。めっちゃ偉そう。威圧感半端ない。あれかな、罰ゲームとか?そんなに俺嫌われてたのかな。ショック。
「分からない?恋人になってっていってるの。」
分かるかーーー!恋人に?長月さんが?これ、OKしたら毎日上から目線で絡んでくるのかな。うわー…ないわー…。
「ごめん。俺そういう、ツンデレって嫌いなんだ。」