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06.ロールロックスまでは何マイル?

今回は短めです。

 空は既に明るんでいる。いつの間にか曇天の暗い夜は潮が引いたかのようになくなり、乳白色の朝焼けが東の空に広がり始めていた。

 昨日のことが嘘のように思えるが、事実であることをスティーブは骨にしみるほどわかっている。あの後、スティーブはトミーことトーマス・ダルトリーを質問攻めにした。酷く取り乱した様子でトミーの胸ぐらを掴み、さっきのはなんだ、どうして母が殺されなくてはならないのか、父親はいったい何をしたのか。聞きたいことが山ほどある。しかし、トミーはこの場で応える様子がなく、掴みかかったスティーブの腕を外してこう言った。


「今から知る。来いよ。ドライブだ。」


 そうして乗せられた車は、どこにでもありそうなグレーのセダン車だ。車内は広く、生活臭があまりしない。しばらく、沈黙が二人の間を行きかい、気まずい雰囲気が漂う。

 運転席に座ったトミーは何となしにラジオを付ける。カーラジオから耳を素通りするようなどこかありきたりな曲が流れてきた。そして、曲の締めくくりにDJが「良い一日を!」などと明るい声を発している。スティーブにとっては良い一日にはなりそうにない。


「どこに連れて行く気だ。」


 助手席に座るスティーブが先ほどよりはずいぶんと落ち着いた様子で話を切り出す。しかし、内心は混沌としており、一つでも情報がほしいところだった。そんなスティーブの様子を横目で見ていたトミーは運転に集中しながらも口を開く。


「まずは空港。そっから、ロールロックスだ。そこなら安全だ。」


 そう言ってサンバイザーから飛行機のチケットを取り出し、スティーブに渡す。敵に狙われているとあらかじめわかっていたので逃走用にチケットは購入済みだ。そのためにいくつかカモフラージュもしてきた。まずは空港に向かい、とっととこの土地から逃げることが先決である。


「安全な場所なんかあるのかよ?」


 渡されたチケットを眺めたスティーブが、独り言のように呟く。どこに行っても、同じように思えて仕方がなかった。

マックス・フライは‘俺たち’と言っていた。つまり、他にも奇想天外なわけのわからん能力を持った連中がスティーブ・ウィリスの命を狙いにやってくる可能性があるのだ。いや、来るのだろう。マックス・フライが言ったようにどんな理由があるか知らないが、ブラックマンに復讐しようとするのだから、それ相応の憎しみを抱いているのは確かだ。それを途中で止めることなんてない。そんな生半可な覚悟ではないはずだ。ブラックマンがいったい何人の連中に恨みを買ったのかはわからないが、スティーブを狙いに刺客がやってくるだろう。そう思うとどこにいたって変わらないように思えたのだ。

そんな不安の言葉がトミーの耳に届いたらしく、眉をピクリと動かしやれやれと言いたげに軽くため息をついた。


「ロールロックスにはオブザーバーの本部がある。少なくともここよりはマシだ。」


 『オブザーバー』と聞き慣れない言葉にスティーブはオウム返しのようにトミーに聞き返す。すると、トミーは一瞬しまったという顔をして、あーだのうーだのと言葉を濁した。どうやら言ってはいけないことだったらしい。しかし、すぐに何だか諦めた顔して仕方なしにと口を開く。


「隠してしゃーないと思うから言うが、オブザーバーっつーのは、あれだ。都市伝説のメン・イン・ブラックみたいな組織だ。」

「ウィル・スミスの?」

「そりゃ、映画だ。まあ、似たようなもんか。オブザーバーには「メン・イン・ブラック」のような黒服じゃないが、似たようなことする男たちがいるんだ。俺もその一人。超常現象の目撃者・研究者の前に現れ、警告や脅迫を与えたり、さまざまな圧力や妨害を行う謎の組織なのよ。陰謀説や云々あるが実際のところ企業のお抱え超常現象を監視する組織だ。」


 都市伝説「メン・イン・ブラック」。トミーが言ったように超常現象の情報を持っている人に口止めをしたり、殺害をほのめかす忠告をするなど胡散臭そうないろいろな噂がある。しかし、それはあくまで架空の組織だ。スティーブはそう思っていた。


「監視対象の一人、カミール・C・ルネートゥルって奴が研究のため多くの人間を犠牲にして、とある薬を作り上げた。その薬は人間の脳に作用し、特殊能力を引き出すシロモノだったのよ。そのことを突き止めた組織は捕まえようとしたが、追い詰めた矢先に奴は死んだ。研究施設を燃やしてな。追い詰めたのはあんたの親父、ジョン・ブラックマン。それを恨んだ連中があんたらを襲った奴らだ。」


 トミーのしゃべることがまるで映画のような話だった。つまり、映画やドラマにしてはいささか流行遅れと言おうか、使い古された現実には起きないことのように思えたのだった。ブラックマンは自分が離れれば家族は安全だと思い、家族から離れ代わりに護衛を付けたのだとトミーは続けた。


「だが、先日奴等はあんたらを護衛していたスティングって言う俺の同僚を拷問し、情報を奪い取った。そのせいであんた等の情報が漏れて、こんなことになっちまったってわけだ。」


 トミーは目を細め、唇をかんだ。顔をに灰色の影が落ち、噛んだ唇がうっすら赤くなる。


「あんたを狙ってくるのはさっきの奴だけじゃない。」


 トミーはしばらく、何も言わなかった。スティーブはごくりと唾を呑み、トミーを見た。トミーもスティーブを見た。薄緑の目に動揺している自分の顔が映る。すると、トミーはすぐに暗い表情を引っ込め、人懐っこそうな明るい表情に変える。にやりとした笑みから白い歯が見えた。


「だから少しでも安全な所にとっとと逃げようってところだ。心配すんな!」


恐らく、スティーブをリラックスさせようとしたのだろう。何だか、気を使われてしまい少し居心地が悪くて、すぐに窓の方へ視線を向ける。


「な~に!何かあれば俺が守ってやんよ!お前の護衛は最強なんだって所、見せてやるぜ!」


 そう言いながら、片手てバシバシとスティーブの肩を叩く。最初に合った時のイメージがだいぶ崩れる。こんな奴だっただろうか。

 窓を眺めれば広い道路だ。空港が近いせいもあって、バスの数が多くなってきた。空港まであと4キロと書かれた標識が過ぎ去る。あと4キロ走れば、もうすぐ空港につく。いささか不安が残る前途多難な旅路の始まりだ。


次回予告(嘘かもしれない)

ロールロックスに向かうため飛行機に乗り込んだスティーブとトミー。しかし、そこに待ち受けていたのは新たな刺客!次回、ESPers!『溺れて死ね!恐怖のフライト!』悪魔はそばにいる!


ここまで読んでいただきありがとうございます。

これからもよろしくお願いします。

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