正月の販売戦略
日本ではイベントごとが多く、そのたびに企業が様々な工夫をした商業戦略を立て、顧客や買い物客へアピールをしている。
例えば正月やゴールデンウィーク、お盆、クリスマスといった大きな出来事、大型連休の際には、ぜひともわが店に、わが社の商品をと客集めに必死になる。
ここで大きく売り上げるか、売り上げないか。この差が、一年を通しての大きな差となってしまう。
さて、とある食品会社F社でも、年末商戦に向けて商業戦略の会議が行われていた。
「今年も残すところあと一か月となった。今回もケーキや餅、オードブルといった様々な企画が上がっているが……」
「クリスマスは早めに予約受付しないといけないですから、A案でいいんじゃないでしょうか」
「オードブルはともかく、ケーキは個性的なものを……」
クリスマスと正月。この二大イベントで失速してしまうことは避けて通りたいところ。
粛々と、会議で出された提案の採決が下る。
「さて、クリスマス商戦の案は一通り決定ということで、次は年末年始の正月商戦だが……」
「最近、年越しそばは安いもので済ませている家庭が多い。そもそも、年末ですら仕事で忙しく、凝ったものが作れないから、ありあわせの材料で……と考えている人が多いようだ」
「正月のおせちに凝るならなおさら。ということは、食材を安く提供できれば、何とかなるか」
リサーチ班や企画班がそろい、次々と適当な商品を提案していく。
そして、次に挙がったのが餅についてだ。
「鏡餅は食用としての需要が少ないですからね。形にこだわった方がいいでしょう」
「しかし、最近はプラスチックの餅型のものを飾っている人が多いですね。特に独身の方に」
「なるほど、ということは、そのタイプのものを取り入れようではないか」
「ただ、やはり餅というものは食べ物だ。中に餅を入れなければ、食べる楽しみというものがなくなる」
「いや、それは既出商品だ。もう少しオリジナリティーで勝負を……」
なんとか既存商品にないアイデアを出そうと必死になるが、なかなかアイデアが出ない。
その時、一人の社員がつぶやいた。
「一緒にお雑煮の具を入れておいたらどうですか? 簡単に作れるように」
「お雑煮? 何を言ってるんだ。餅を食べるのは鏡開き……」
と、ここで、別の社員が何かをひらめいたようだ。
「鏡開き! そうですよ。鏡開きの時に手軽にぜんざいを食べれるようにすればいいんです」
「なるほど、ということはあんこを中に……」
「粉末のあんこなら場所取らないでしょ」
「よし、それで行こう!」
「餅も、去年販売したぜんざいに合う餅を入れて……」
こうして、粉末あんこ入りの鏡餅の開発が始まった。
とは言っても、すでに既成製品があったので、それを組み合わせるだけだった。
そして、鏡開きにすぐにぜんざいが楽しめる「粉末あんこ入りプラスチック鏡餅」という、画期的かどうか不明の商品が販売された。
客たちは珍しいのか、手にとって箱を眺める。が、なかなかかごに入れてくれる客まではいない。
そのままひと月が経ち、売り上げ報告を見て愕然とした。あろうことか、既成製品であるプラスチック製鏡餅よりも、極端に売上数が少ないのだ。
「おい、どういうことだ。何故新製品が既成製品に負けるのだ」
「おかしいですね。既成製品よりも大々的に広告も出してたはずなんですけど」
「パッケージがダメだったのか?」
「いえ、実際お店を見てみましたが、パッケージ買いする人が結構多かったですよ。ただ、それ以上に既成製品が売れてるってだけで……」
あれこれと原因を探るが、一向にわからない。
「そういえば、最近同様の製品を買う人って、箱を隅々まで見る傾向がありますよね。そこにヒントが……?」
そういうと、一人の社員がサンプルの箱を隅々と見渡した。
「……! あ、これは……」
その社員は何かを見つけると、思わず叫んだ。
「ん、何があったんだ?」
ほかの社員が、箱に近寄る。そして、箱を持った社員が、とある部分を見せた。
「これ、消費期限が一月七日になってます」
「ああ、そういえばぜんざいに合うあの餅、消費期限短かったもんな……」
今日(1月22日)、レトルトのしるこを使ってようやく鏡開きをしました。
なんかありそうですよね、こういう商品。