第一章 第三節 困惑と虐殺
諒、秀、花を先頭にして、体育館へと続く廊下を進む。あのまま教室に居たって何も解決しない。ならば教師達に会うためにも、状況の打開をするためにも、まずは体育館に行ってみるべきだろう。諒達はそう考えて移動したのだ。
「なあ諒、さっきの赤い雷すごかったよな!俺あんなの初めてみたぜ!」
「……え?あ、ああ。珍しいよね」
「……何か変だな。どうした?気分でも悪いのか?」
秀が興奮して話しかけてくるが、諒は思考に精一杯でろくに話を聞いていなかった。
「ちょっと気になることが……いや、なんでもない。多分気のせいだ」
先ほどの雷で停電したのか、電灯もついておらず、廊下は薄暗い。曇り空も相まって余計に不気味さが増している。
教室に居た時は騒いでいた者達も、今は黙りこくっている。しゃべっているのは諒達だけだ。
春とは思えない程どんよりとした空気の中、誰もが喋る気を無くしているのだ。
窓を透過して時折目に映る稲光を視界の端で捉えながらしばらく歩くと、程なくして、体育館の入り口が見えてきた。
ちらちらと灯りが灯っているようだ。クラスメート達の間から溜め息が漏れる。安堵からだろう。何が起きているのか分からない状況は、恐怖を与えると共に精神を圧迫する。明かりをみて、本能的に安心したのだ。
だが、先頭で進んでいた諒達の反応は違う。その光景を見て愕然とする。体育館に灯っていた灯り。
……それは炎だった。
卒業式に来た人達であろう、晴れ着を着て、動かなくなっている、人だった″もの″。
もはや人間の原形を留めているものはない。あるものは首を引きちぎられ、あるものは身体までもずたずたにされ。腕や足がないものも珍しくない。何より、その数。教師や在校生、保護者など、その場にいたものすべてがここで死んだのだろうと推測できるほどの。いや、ただ死んだのでは決してないだろう。その死に方はどれも異常であり、間違いなく殺されたと推測できる。
全在校生、全教師、全保護者。のべ千人を軽く越える人間。それほどの死体からとめどなく溢れる、血、血、血……
教室での様子を阿鼻叫喚としたならば、この光景は地獄絵図。まさに虐殺といった様相であった。
後から来たクラスメートたちも異変……というにはあまりにも常軌を逸した状況に気がつく。
すぐに、叫び出す者、嘔吐する者、泣き喚く者など、再び、しかし先とは比べ物にならないほどの阿鼻叫喚の連鎖が生まれる。
気が狂いそうだ。訳の分からない出来事はもうごめんだった。しかし現実は甘くない。そして非現実はさらに残酷であった。
ガタ……ゴ、ゴウン……
なにか重い物が動くときのような、重く低い音が、聞くものすら少なくなった体育館に響く。
現れたのは、鋼鉄の蜘蛛。八本足の機構だった。
「なんなんだよ!?あれ!!」
「ロボット……?なの?………!あ、あああれ!!ち、血が付いてるっ!?」
突如として出現した鋼鉄の塊に、驚くしかないクラスメート達。それも当然だ。その機体には血がべっとりと付いていたのだから。
この状況でこの事が予想出来ないものはいまい。
……この機械こそ、大量虐殺の犯人である、と。
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