第一章 第二節 始まりの終わり
「……あ、そろそろ時間だね。
秀、花。もう移動しよう?」
取っ組み合っている二人に声をかける。もうこの二人の仲裁も慣れたものだ。
「そうね。行くわよ秀」
「お前もじゃん!?……つーかさ、なんか天気が怪しくねーか?雷でも落ちてきそうだぞ?」
秀が鈍色の空を見上げつぶやく。先程までの春の暖かさは何処へ行ったのか。影も残さず逃げ去ってしまったようだ。
なんとなく、人の心を不安にさせるような空の色だ。
「なんか、嫌な予感がするな。卒業式、大丈夫かな……?」
「何言ってるの、か、雷が落ちてもそ、卒業式には関係………
きゃあっ!」
カッ!
動揺する花の話の腰を折るように、稲光が閃く。一瞬の後、
ッドォォォーーン!!!
辺りが、真っ赤に染まった。
落ちたのは紅色をした雷。巨大な赤い天の怒りは、圧倒的な迫力で見たものを竦ませた。
「っ!……あぁ、驚いたな……花
、大丈夫?」
「だっ、だだだ大丈夫な訳ないでしょ!?なんなのよもう!!」
花が涙目で喚く。この幼なじみは昔から雷がとても苦手だった。
「……ごめん。立てる?あ、いや、手を貸すよ。はい
」
「ん、ありがと……ぐすっ」
「な、なあなあ諒、あの雷、例のあれに落ちたみたいだぞ!?」
驚きの声を上げたのはどうやら秀のようだった。怯える者、興奮する者。教室内は騒然としていて、少し注意せねば声を聞き逃す程だった。
赤い雷など、そうそう見れるものではない。めったにない事態に、一種の興奮状態にあるのだろう。
「あれ?……あぁ、あれか。もうボロボロだったからね……壊れたんじゃない?火事になってないか心配だけど」
諒たちが言う「例のあれ」とは、体育館横に鎮座する古びた倉庫のことである。
噂では、もう三十年近く開かずに放置されているらしい。なんの為に作られたのか、校長ですら知らないらしく、取り壊そうという話が出ていたらしいが、結局今日までそのままだ。諒が心配したのは木造だからである。
秀の言葉に、少しばかりクラスメート達が集まってくる。
窓際に集った沢山の目が捉えたのは、グラウンドに広がる薄暗闇ばかり。
鈍く光る鋼鉄の塊に気付く者は居なかった。
……ただ1人を除いては。
ざわめくクラスメートたちの中でなお、一人冷静に対処を行おうとする者がいた。諒である。彼だけは、視界の隅に映る光沢に気がついていた。だが、今はそんな些細な事を気にしている時ではないと、思考から切り捨てる。
「みんな、今はそれどころじゃないよ。とにかく時間だ。ここにいても始まらない。卒業するにしても、あれを対処してもらうにしても、まずは卒業式に出なきゃ。とりあえず先生を呼ぼう?」
声の届かないクラスメート達に半ば独り言のように告げて、教師へ連絡を取るために教室に備え付けの電話機に向かう。こういった非常事態の時の為、各教室には一台ずつ電話機が備え付けられていた。
献身的に先頭に立つ諒も決して落ち着いている訳ではない。しかし、常にない状況でこそ、自分が皆を助けなければならない。友達思いの少年はそんな使命じみた感情に突き動かされていた。
受話器を手にとり、職員室の番号を押す。
待ち時間がやけに長く感じられる。いや、実際に長いのだ。いくら待っても誰も出る気配がない。
諦めて受話器を置く。
このまま待っても、事態は好転しないだろう。やはり、直接行くしかないのだろうか。
振り返り、秀と花の方をみる。
「秀」
「ああ、そうだな」
「花」
「そ、そうね」
二人とアイコンタクトだけで意思を疎通し、今度はクラスメートに向き直り、依然として落ち着かないクラスメートたちに告げる。
「会場に行こう」
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