第一章 第一節 始まりの始まり
少し短かったでしょうか……
「くぅ~~!これでやっとこの退屈な高校生活からもお別れか!でもやっぱり終わるとなるとほんのちょっぴり寂しいな……」
「ぷっ!よく言うよ……誰よりも高校生活楽しんでたくせに!」
季節は春。
桜が咲き、また散り始める頃である。
春の陽気にあてられたのか、おちゃらけて見せる、その言動通りに、快活そうな表情を浮かべて伸びをするのは
海村 秀。
運動系の部活に所属する人間特有の、引き締まり、それでいて鍛えられた肉体をしている。
それに対して笑いながらツッコミを入れるのは
東野 花。
その容姿だけみてもまず間違いなく美しいと形容されるに足るだけの見た目だが、花により華を添えるのはその笑顔。それを見る者までも釣られて笑みがこぼれるであろうと想像できる程の華やかさ、もとい明るさを、それは持っている。ちなみに親しい者には手厳しいことで有名だった。
この2人と、あともう一人の男子。今日のこの卒業式までは、共に八本高校に通っていた高校三年生であった。
「確かに、秀は高校生活これ以上ないってくらいにエンジョイしてたよな……宿題忘れて先生達に呼び出しくらって怒られて、『これも高校生活送る中の一つの醍醐味だよな!』なんていって笑ってたのはお前くらいだよ」
そのもう一人の男子。
良く言えば穏やかで優しい、悪く言えば少し気の弱そうな顔で木漏れ日のように柔らかく微笑むのは
陵 諒。
実はその優しさの奥に強固な意志を秘めていることは、知る人ぞ知ることであったが、友達を何よりも大切にすることだけは彼を少しでも知る者なら知っていることだった。
三人は幼稚園の頃から、小学校、中学校、高校と、ずっと一緒だった、いわゆる幼なじみと言うやつである。八本高校にも他に数人、小学校からの友人が来ていた。
この日、三人とクラスメート合わせて40人、それも含めて約300人がこの日、八本高校を卒業する。今は卒業式が始まるまでの待機時間。三人はもはや郷愁すら感じる程に見慣れた教室の窓際で、クラスメートとは少し距離を置いて話していた。
窓の外では、この平和な日常を示すかのように、ハト達が空を飛び回り、あるいは地面をつつき、あるいは木の枝に止まってさえずっていた。
先程までは、空までも卒業式を祝っているかのようにすっかり快晴だったのだが、今では少しばかり雲が出てきた。
「にしてもオレらもう高校生じゃなくて社会人になんだよな……時間が経つのはホントに早いよな」
「そうよね、秀が卒業後のことを考えられるようになるなんて、ホントに成長したよね。時間も経つ筈だわ」
「諒、オレはこれに怒っていいよな?」
「やめときなよ。いいことないよ。前も○○されたでしょ?」
「……っ!!いやだ、や、やめろ、あれはいやだぁーー!!」
教室にトラウマを思い出した男の叫びがあがる。
…………………この平和な光景。
すぐに遠いものになることを、この時点で知っている者は誰もいなかった。
校庭に、ハトはもういない。
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