おのれ小僧
携帯電話が落ちたすぐ右隣には中世の城がそびえ、車一台入れる程度の規模の門が開いていた。いや、正確に言えば中世の城のようなもの。恋仲になった男女が乳繰り合うことだけを目的に建造された夢の城だ。
しかしなんでまた大学の近くにこんなものを建てのだか理解できん。血迷ったとしか言いようがない。
などと夢の城についてあれやこれやと考察を続けている場合ではない、と気付き、僕は五メートル前方で戦闘不能に陥っている携帯電話を救うべく歩き出した。
だが僕の携帯電話を何者かが拾った。
僕は顔を上げて、その何者かを見た。何者かは小学校低学年ほどに見える少年だった。少年は祭会場でも温泉でもないこの場所で、どういうわけか浴衣姿だった。まあ、どんな格好しようとそれは自由だ。浴衣だろうがバニーガールだろうがスクール水着だろうがドンと来いというものだ。
少年は夢の城の門の前に突っ立っていた。
「拾ってくれたのか。感謝するよ」と僕は少年に言った。
「……」少年は黙っている。彼の手には僕の携帯電話が握られている。
「少年、その携帯電話は俺のなんだ」僕はそう言うと、手を差し出した。
「……」
「少年――」
「べー」と少年は舌を出し、見事なあかんべーを披露した。
「おのれ小僧……」