坂道の伝説
僕が所属する演劇部は六月、十月、三月の年三回、定期公演を行っている。まあのんびりとした連中が集まっているので、あまりガツガツと練習したりはしないが。
それでも今度の十月、文化祭での公演に向けて八月から練習をしようということになり、僕はその公演で使うコタツをせっせと運んでいる。
大道具係で且つ大学から一番近い所に住んでいる、という理由で、僕のコタツが一時的に徴集されることとなった。「僕の」とは言っても貰い物だが。
演劇部仲間の藤縄が、夏のお祭の大食い大会で命からがら手に入れたコタツを僕が貰い受けたのだ。
そのコタツの重さと八月の太陽が、僕の体力を容赦なく削ってくる。
僕はずっと俯けていた顔を上げてみた。
坂道はまだ延々と続いている。
これはもう卒業した演劇部のOBに聞いた話だが、この辺り一帯は元々は山だったらしいのだ。きっとのどかで野鳥がさえずるような山だったに違いない。
そんな平和な山に突如殴りこみをかけたのが、僕の大学の経営者だ。彼は金にものを大学建設を押し切り、小鳥達の山を崩して削って道路を敷いて、その頂上に僕の大学を建造した。
その山の名残があり、このような坂道が存在しているとのこと。
それに家もまばらにしか建っていない。あとは空き地だったり、謎の工場だったり、魅惑のお城だったりするだけだ。どう好意的に見ても東京とは思えん。
道は車がぎりぎりすれ違える程度の広さの道で、センターラインが無いからバスと普通乗用車がすれ違う時にはかなり冷や冷やする。まあ、今はバスに乗っていないから関係ないが。それに車も滅多に通らない。
遠くに大学の講義棟は見えてはいるのだが、その姿はまだ小さく、陽炎のようにゆらゆらと揺らいでいるような気がする。
まさか蜃気楼ではあるまいな、と一瞬危惧したが、サハラ砂漠ならまだしも田舎っぽいとはいえ一応東京。蜃気楼なんぞあってたまるか、と思い直し、またえっちらおっちら前へと進む。
あるいは、僕の意識が薄れ始めているせいで、景色が揺らいで見えたのかもしれぬ。
そして僕は朦朧とする意識の中、ふと、この坂道にまつわる伝説を思い出した。それは何の科学的根拠もないUFOや宇宙人と同じくらい胡散臭いもので、全くもって信じるに値しない下らぬものだった。経験談やら目撃談、その他様々な噂は聞いてはいるが、仮にそれが本当だったとしても、今の僕には関係ないだろう。こんなコタツとうもろこし汗だく男には、無縁の伝説だ。
僕は深い深い溜息をつき、大学の部室棟へ向けて歩みを進める。