最終的に、我々が勝利するのよ
『第十七回とうもろこし大食い王決定戦』から一時間近く経ちました。
僕と竜宮下さんはお祭り会場の隅、木製のベンチが三つ設置されているところにちんまりと座り、ラムネをちびちびと飲んでいました。
ベンチの横にはダンボールに入れられたコタツが立てかけてあります。さすがにそのまま背負って歩くのはお馬鹿さんの極みだと思い、司会者の人に頼んでダンボールを頂き、コタツを折りたたんでぶちこんだ次第です。
それにしても……。
「ニャンダムが……コタツ。夏に……コタツ」と僕はわけのわからない呟きを発しました。
お祭りの喧騒がやけに遠くに感じられます。生暖かい風が木々の枝を揺らし、サワサワと寂しい音を立てています。
その風で竜宮下さんの髪が乱れ、右頬に髪の毛がかかってしまいました。彼女はそれを優雅な手つきで払い、僕にこう言いました。
「藤縄くん、夏にコタツというのも悪くないよ。今から冬に備えるって、働き蟻みたいで素晴らしいと思う。あの腹岡という熊とゴリラを足したような男は、きっと冬に後悔することでしょう。『嗚呼、あの時準優勝してコタツを取っていれば、こんなに寒い思いはしなくて済んだのに』と」
竜宮下さんはそう言うと、世界で一番魅惑的な笑みを浮かべ、こう付け加えました。
「最終的に、我々が勝利するのよ」と。
なんて勝気な女性なんでしょう。僕は惚れ直してしまいました。
その時、お祭り会場の中央から花火が打ちあがりました。ぽんっぽんっぽんっ、と夜空に赤や黄、緑や橙の色鮮やかな花火が咲き乱れました。
竜宮下さんは空を仰いで花火に見とれ、僕は花火の光りに照らされる竜宮下さんの横顔に見とれていました。
「藤縄くん、では参りましょうか」と竜宮下さんは言って立ち上がりました。
「どこへ行きますか? りんご飴でも食べますか」と僕は言いました。
「いや、ちょっと目をつけていたものがあるから、そこへ」
「目をつけていたものとはなんですか?」
「それはね――」
僕は見逃しませんでした。竜宮下さんが不敵に笑うのを。そして案の定、彼女はこんなことを言いました。
「向こうに『第十七回たこやき大食い王決定戦』という大会が催されるらしいの」
竜宮下さんはそう言うや否や、さっさと歩き出してしまいました。慌てて僕はコタツを抱え、彼女を追いました。
お腹の中はとうもろこしでいっぱいです。