コタツ
負けました。
熊ゴリラこと腹岡さんは、やはり見かけどおりの化け物でした。常時ラマダン状態にあった僕が敵わなかったのです。予想外のママの呪いも敗因でした。
腹岡さんは授与式で、とうもろこし型のトロフィーと六十分の一ニャンダムのフィギュアを司会の人から受け取ると「うほうほうほほ!」と勝利の雄叫びを上げ、その巨体に似合わない俊敏な動きで舞台から飛び降り、走り去っていきました。おそらくママの下へ帰っていたのでしょう。
敵ながらあっぱれな奴じゃった、と戦国武将のようにコメントしたいところなのですが、敗者の僕にはそんなことを言う資格すらありません。ショックです。
ですがさらなるショックが僕を追い詰めました。
「では続いて、準優勝の藤縄さんに賞品の授与をしたいと思いまーす」と司会のおじさんが言いました。
僕は優勝者にしか賞品をくれないもとばかり思っていたので、これ幸い、とその時は思いました。準優勝の品で、竜宮下さんのご機嫌を取ろうという作戦です。
「準優勝の賞品はこちらでーすっ」
司会の人がそう言うと、舞台裏から一人暮らしサイズのコタツを背負った若い男が登場しました。
「準優勝の品は我が家に代々伝わる秘宝! 電気店を営む我が家を数十年に渡って見守った(あるいは売れ残った)コタツでーすっ」
視界のおじさんが言い終わると、若い男が僕の背後に回りこみ、僕の背中にコタツを背負わせました。赤ちゃんをおぶるみたいにコタツを背負っている僕に、観客の人たちがなんとも微妙な視線を送ってきます。たぶん彼らはこう思っているのでしょう。
「夏にコタツなんてねぇ」と。
観客だけじゃなく、きっと司会者のおじさんもそう思っているのでしょう。僕だってそう思います。そしておそらく、竜宮下さんも。
「皆さん、藤縄さんに盛大な拍手をお送りくださーい」
勢いに欠けた拍手がパラパラと僕にぶつかってきました。
僕は観客席の竜宮下さんを直視できず、かくれんぼの鬼のようにきょろきょろとしていました。