どこのどいつか知らんがやってくれるぜ
「こ、これはっ」と藤縄。
「破廉恥な!」と英輔。
俺は二人に携帯電話の画面を見せていた。画面には一枚の写真が表示されていた。
「ほかにもこんなもんも送ってきやがった」俺はそう言うと、次の写真に切り替えた。
「こ、これはっ」と藤縄。
「破廉恥な!」と英輔。
「お前ら、もっと違うこと言えねえのかよ」
「いやぁ、驚きましたね」藤縄は頭をぽりぽりと掻いた。「まさか『演劇部のパパラッチ』の異名を持つ工藤さんがパパラッチの被害に遭うとは、これは事件ですね」
藤縄の言うとおり、俺もこれは事件だと思っていた。
一枚目の写真は俺がこの近くの畑からこっそりと、とうもろこし二本を盗み出そうとしている現場を激写されていて、もう一枚は演劇部の部員のスキャンダルを激写している俺を激写していた。
「これはいつ送られてきたのだ?」と英輔は俺に訊いた。
「昨日の夜だ。寝ようと思ってたときに着信があったんだよ。ただ俺は面倒だったからその時は無視したんだ。どうせ藤縄だろうと思ったしな」
「失敬な。僕のメールは常に一大事を知らせるものばかりなのですよ」
俺は藤縄を黙殺して続ける。「で、朝起きてメールを見てみたら、その二枚の写真が添付されたメールだったわけだ。まったく、どこのどいつか知らんがやってくれるぜ」
「どこのどいつか知らんが、って、誰だかわからないのか?」
「わからねえ。フリーメールのアドレスだ。でなきゃこんなもん送ってこねえよ」
「なるほど。どれ、ちょっと携帯を貸してくれないか」
俺は英輔に携帯を手渡した。
英輔はピポパポと軽快にボタンを押し、送り主のアドレスを表示させた。
『onigashima@××××.××××』
「このアドレスに心当たりは?」
「ないなぁ。見当もつかねえ」
「ふーむ」英輔は腕を組んで難しい顔をして考え始めていた。
「工藤さん、もしかして今日ここに集まったのって、このしょうもない写真を僕らに見せるためですか」
「違う。見せるだけじゃなくて、さらに犯人が誰かを推理してほしんだ」
「推理ですか? 僕たちは探偵さんじゃないのですよ」
「うっせえ。いいからお前も英輔のように難しい顔をして推理しろ。パパラッチがパパラッチされたなんて、パパラッチの沽券に関わる重大な問題だぜ」
「パパラッチの沽券なんてどうでもいいじゃありませんか」
「いいからお前も推理――」
「そもそも」と英輔が口を挟んだ。「とうもろこし畑から盗みを働くとは、まずそこを反省すべきである」