集まる三人
英輔の住むアパート『アナハイツ』は、大学から長く長く続く坂道を下って二、三分歩いたところにある。一応東京なのだが、この辺はまだまだ発展途上で、空き地やら畑が多く点在している。
俺は英輔の部屋のベランダで煙草を吸っていた。部屋は五階だから景色は良いはずだけど、夜になると暗くなって遠くの山も闇の中に姿を消す。見えるとしたらすぐ近くを走る電車やぽつぽつと建っている家々の明かりぐらいだ。
ガラス戸越しに部屋の中を窺うと、ワンルーム六畳の中心で英輔と藤縄がコタツに入ってぬくぬくしている。あいつらは煙草を吸わない。というより嫌悪している。喫煙者はいつもこうやって温かいところから追い出される。
さぶっ。俺もぬくぬくしてえ。
俺は携帯灰皿で煙草をもみ消し、部屋の中に入り、コタツに滑り込んだ。
「工藤さん、なにやら煙草の臭いがするのですが、気のせいでしょうか」と藤縄が言った。
「気のせい気のせい。俺はそんなもん、ちーっともわからんぞい」
「いや、臭う。臭うぞぉ」と英輔が鼻をくんくんさせながら言った。
「やれやれ、お前らは細かいからいけねえな。もっと俺みたいに寛大になれよ。器を大きく、心を広く、だ」
「工藤さんに言われると腹が立ちますね」
「うっせえ」
「それにしても、コタツはいいものだな」と英輔がミカンの皮を剥きながら言った。
「でしょう? 僕も頑張ってとうもろこしを食べた甲斐がありました。文化祭でもこのコタツは活躍しましたし、大食い大会で優勝しないでよかったです。やはり『最終的に、我々が勝利するのよ』ですね」
「なんか最後のほうの言い方がおかしくないか。まるで誰かの言葉を引用しているように聞こえるぞ」と俺は言った。
「気のせいですよ。嫌だなぁ工藤さん。冗談はそのゴツいカメラだけにしてくださいよ」
「このカメラは冗談なんかじゃねえぞ。いつシャッターチャンスに遭遇してもいいように、俺はいつもこうやって首からカメラを提げてるんだぜ」と俺は言って、カメラを軽く撫でた。
「それにしても、俺と藤縄はやけに夏にコタツに縁があったような気がするのだが」
「それも気のせいですよ、英輔さん」
「それもそうだな、藤縄よ。はっはっは」
「あっはっは」
「はて、そういえば俺達はなぜ今日、ここに集まったのだ? 今日は俺の誕生日だったか?」
「もしかしたら僕の誕生日かもしれません」
「お前ら、今日ここに集まった趣旨を完全に忘れてやがったのかよ」と俺は呆れた。