とうもろこし大食い大会
『第十七回とうもろこし大食い王決定戦』の決勝戦まで勝ち進んだ僕は、これまで見たこともない最強の敵と戦っています。
僕はちらりと隣を見ました。腹岡さんという大男が猛烈な勢いでとうもろこしを食べています。
僕も負けてはいられません。この戦いに勝利せねばならないのです!
僕は目の前の皿に盛られたとうもろこしの山に手を伸ばします。
「うおおおぉぉぉぉ。むしゃむしゃしゃ」と僕。
「ぐほぐほっ。もしゃもしゃしゃ」と腹岡さん。
僕と腹岡さんは互角の戦いを展開しています。
僕たち二人がとうもろこしを食べる様子を、会場の外のたくさんの観客達が見守っています。
夏祭りだからヨーヨーや綿飴を持ったお子ちゃまたちがたくさんいらっしゃいますね。
夜になってから幾分涼しくなったはずなのですが、僕は暑くなる一方です。それは腹岡さんも同じらしく、気味の悪い男汗をだらだらと垂らしています。
一見すると腹岡さんのほうが圧倒的に優勢に見えます。それはもう観客の誰もがそう思うことでしょう。
なにせ腹岡さんに比べると、僕の体は小さいのです。いえ、腹岡さんと比べなくても小さいのです。
僕の体は中学三年生の時に身長160センチに到達すると、そこが頂上だと思ったのか、それより上に一ミリも成長しませんでした。悲しすぎて涙なしでは語れません。
ですが僕はその見かけとは裏腹に、なかなかの大食い野郎なのです。しかも大学に入学し一人暮らしを始めてからは極貧生活を余儀なくされ、胃袋の中は常時すっからかん。縮んでしまったのではと危惧したのですが、この『第十七回とうもろこし大食い王決定戦』に出場してみて安心しました。僕の胃袋は縮んでなどいなかったのです。それどころか、たるんで伸びてしまったのか前よりもたくさんの食物を溜め込むことが可能になりました。
ですが安心してばかりもいられません。
腹岡さん、只者ではないのです。
熊とゴリラを足して二で割らず足したままにしたようなその風貌は、まさに大食いで勝利するために生まれてきた男にしか見えません。
頭もでかいし顔もでかい、腕は丸太のように太く二の腕のお肉がプヨプヨしてます。顔には髭がびっしりと、腕には腕毛がびっしりと生え揃っています。身長もたぶん190センチはあるのではないでしょうか(座っているせいでよくわかりませんが)。
そして当然の帰結のように腹も臼の中の餅のようにブヨンブヨンと巨大で柔らかそうです。
「ぐふふふっ、ニャンダムは俺がいただくぜ。ぐふふふ」と腹岡さんが不吉な笑みを浮かべて言いました。
「そうはいきません。ニャンダムは僕が勝ち取ります」
「チビが俺に勝てるわけないだろ」
「……今、なんと仰いましたか?」
「チビ」
「……」
「あれ、聞こえなかったのか? ではもう一度。チービッ」
「貴様! チビと言いやがったな! チビにチビと言うとは許せん。この戦いに勝利した暁には、貴様を熊ゴリラ鍋にしてくれるわ! そんな闇鍋、誰も食っちゃくれないぞっ。悲しいぞっ」
僕としたことが、つい怒っちゃいました。
「藤縄くーん。私のために頑張りなさーいっ」
観客席から竜宮下さんが僕に向かって声を張り上げました。
そうです。
僕は竜宮下さんのために、この戦いに勝たねばならないのです。