お粗末な帳簿系AI小説の世界に転生してしまった私の末路
※メタいようですがこの小説は展開の都合上一部AIを使ってます。またこの作品は昨今のAI小説を批判するものではありません。
王立アストレア学園の卒業記念舞踏会。
磨き抜かれ傷一つない美しい大理石の床と、天井いっぱいに揺れるシャンデリア。貴族たちの笑い声が響く中、私だけは顔面を蒼白とさせながら舞台の中央に降り立った。
「セシリア・ノートン! 私は今ここに貴様との婚約を破棄し――」
断罪イベントだ。
しかも最悪なことに、私は悪役令嬢に逆断罪される側のヒロインだ。
頭が痛い。
いや、正確には頭痛はしていないのだけれども、頭を抱えたくなるような状況下にあるということを分かって欲しかった。
「承知しました。婚約破棄、慎んでお受け致します。ですが、その前に理由をお聞かせください」
そもそも、私は──敢えてこういう表現をするが──''悪役令嬢''を断罪する事自体に乗り気ではなかった。
だって、この世界、なんというか『雑』なんだよね。
異世界に転生したと気付いたのはいつだっただろうか。特に頭を打ったとか高熱が出たとかは無かった気がする。なんか気が付いたら覚えていたと言った方がいいだろうか。
「理由だと!?」
「はい」
孤児院に預けられた身寄りの無い子で、特段孤児院が貧しかったりやべー大人が居たりやべー界隈に売られたりする限界どブラック孤児院でもなく、まあ極々普通の孤児院というか。
そこである日男爵家に引き取られて、男爵様のお手つきであったメイドが産んだ子が私でしたとか。
よくある乙女ゲー系転生か〜でも私そういうの小説サイトで流し読みで嗜む程度だし、作品名とかで原作チートできる感じでもないけどこれ何となく王道パターンかな〜……と期待に胸を膨らませていた所に降ってわいてきた違和感で、はっとある可能性に気付いたのだ。
あれ、侯爵家嫡子が妙にアプローチしてくる割には、その婚約者様の悪役令嬢がうんともすんとも反応してこないぞ??
流し読みで今まで読んできた作品の名前なんてロクに覚えてはいないが、それでもある程度パターンみたいなものがあるのは知っていた。
これ、悪役令嬢主人公パターンだな、と気づくのにそう時間は掛からなかった。
でもね。
それはまあ、まだいいのよ。よくないけど。
いちばんの問題は、私がある可能性にはっとなって辺りを見回すと、そこからもう違和感しか目に付かなくなってしまった事だった。
お分かりいただけるだろうか。
例えば、今まさにあーだのこーだのと宣うこの男とか。
「貴様は聖女ミレイユをいじめ、学園の資金を押領し弱者を見下している!!」
──いやいやいや。
私は聖女じゃない。前も言ったよね?
何回も本人に言ってるのに、コイツまた言いやがった。
そもそも論で私は信心深い訳でもなければ妙な力を使える訳でもない。そんな物は転生したことに気づいた段階で真っ先に試した。特になんの変哲もない、男爵の不貞の子でしかない。
それなのにコイツは、私のことを何故か聖女と時折言う。
それだけなら……分からないけど、まあ飲み込めなくもないのだけど。
この直後にこの男は決定的にアカン事を言ってしまった。
「リディア・フォン・ローゼンベルク! お前の悪事は既に暴かれている!」
いや、リディアって誰やねん!
セシリア・ノートンじゃなかったんかい!
『ア』と『ン』しか合ってないやんけ!!
……コホン。
お分かりいただけただろうか。
こんな具合に内心盛大にツッコミを入れているところに、リディ……じゃない、セシリア侯爵令嬢が口を開く。
「なるほど」
セシリア様はため息をつくように目を閉じると、静かに一歩前へ出た。開かれた目線の先にいるのは、私だ。
「ではまず一点目。いじめについてですが」
あるいはこの女とか。
「具体的に、私があなたをいつ、どのように''いじめた''のですか?」
「えっと……その……」
「それ貴方の感想ですよね? 私が本当に目障りだと思っていたら、貴方そもそも今頃生きていませんよ」
即答だった。
いや、待って欲しい。お前も大概やぞ。まだ何も言ってないのに私が適当ほざく前提の論破発言するのはやめて欲しい。あと突然タラコ唇の迷言飛び出すのもほんと無理。
「二点目。横領について」
そこで、ついにセシリア様は、どこからともなく分厚い帳簿を取り出した。
そう。
''帳簿''だ。
ここまで来ればもう皆様にもお分かり頂けるだろう。
「王立アストレア学園・生徒会予算、年間五百万ルクス」
私は思わず天を仰いだ。
また帳簿かよ……と。
──この世界は、お粗末なAIが吐き出した悪役令嬢ワールドなのだ。
「北方飢饉支援金、二百万金貨」
最初に気付いたのは生徒会室に遊びに行った時に、この女に限らずほかの生徒会役員たちが帳簿を手にしていた時だろうか。
この世界、どういう訳か皆異常なほどに“帳簿”に執着しているのだ。
特にこの女。
この女必ず帳簿を持ち歩いている。
ある日は買掛帳だったり、ある日は仕訳帳だったり。
とりあえず何らかの帳簿が常に手から生えてる。いやお前学園の生徒だろ。なんでノートじゃなくて帳簿なんだよ。というか授業のノートを帳簿に書くなよ。
そして次にこの王子である。あれ、王子だよね? 途中で設定変わって伯爵家とか公爵家の嫡子や次男になったりしないよね……
名前? 忘れた。どうせAI製だし名前も途中で変わるでしょ。知らんけど。
まあなんせこの暫定王子なのだけれど……こいつハチャメチャに不正会計に関わっている。具体的には国家予算がめっちゃ消えている。
どこに? っていうか、なんで??
そこまで貢がれた記憶もぶっちゃけ無いんだけど。
そして最後に誰かが決まってこう言うのだ。
『帳簿は嘘をつきませんわ』と。
……怖い。
怖すぎる。
一から十まで全てが不自然だ。
「こちらは架空の橋への修繕費です」
「なっ……!」
「そしてこちらはありもしない孤児院への寄進の記録」
「馬鹿な!」
「次にこちらはぼくのかんがえたさいきょうのきしだんの修繕費」
「ま、待て!」
「なお、こちらは絵に描いた餅の減価償却」
「どうなっているんだ!!」
ほんとこれしか言わない。延々と。
こいつ、一生会計監査しかしていない。
内部監査室にでも異動しろと言いたいが、この世界は帳簿がすべ──いや、''帳簿が全て''なのだ。
恋愛もなければ、青春もない。
多分農業とかも存在しているか怪しい。
"数字に感情はない"。いや感情以前にどっからその数字湧いてきたんだよ。
ここまで来ればもう誰でもわかるだろう。
この世界が、AIが雑に生成したテンプレ小説世界であると結論づけるには、十分すぎる。
設定の厚みもなければ人の感情の起伏がやたらと激しい割には肝心の感情自体が籠っていない。なのに帳簿だけ異様に細かい。他設定ガバガバなのに。それこそ通貨が金貨だったりルクスだったり。わけがわからない。
それが恐ろしい。
本当に恐ろしい。
「セシリア様は黙っていてください!」
そう言って、悪役令嬢リディアが帳簿を叩きつける。
いや待って、今の誰?? リディア誰??
「王家の不正会計はすべて暴かれました」
「な、何ぃ!?」
「こちらをご覧ください!」
そう言ってセシリア様がまた帳簿を出した。一体何冊持ってんだよ。もう突っ込むのにも疲れてきた。
しかもページをめくるたびに、
"ぱらり''
とSEが鳴る始末だ。せめてパラパラパラ……とある程度は目星をつけて一斉に捲れ。
というかそもそも帳簿なんてただでさえこの世界異様に帳簿だけ細かいのに、そんな見開きA4ぐらいのサイズの帳簿なんて掲げた所でまともに読める人なんていねーよ。
「ほ、ほんとだわ!!」
「やはり数字は嘘をつかない!」
いや読めるのかよ。遥か後ろの方から聞こえたぞ今。視力良すぎかよ。転生前の世界のアフリカ大陸に住まうマサイ族か何かかよ。
というかその帳簿にある数字、思いっきり嘘をついているじゃないのよ!
だから不正会計だと騒いでるんでしょう!!?
あまりに非現実的な出来事の数々に、思わず私は震えた。
このままだと私は断罪される。
いや、それ自体はもう別にどうでもいい。問題はその後なのよ。
「──聞いているのか、ミレイユ!」
多分王子の怒鳴り声に、私は顔を上げた。
待って、いつの間に話の矛先が私に来た??
「はい」
「何か言うことはないのか!」
ある。それはもう山ほどある。
だが私は深呼吸し、静かに言った。
「帰ります」
沈黙。
「……は?」
「待って、お姉様、私はただ貴方に謝って欲しくて──」
「もう無理です」
私はドレスの裾を掴み、踵を返した。
「ちょ、待て!」
この舞台は完全に狂っている。何もかもがおかしい。
お姉様ってなんだ。いつの間に私は悪役令嬢になったんだ。なんで悪役令嬢がヒロインにすり変わっているんだ。血の繋がりはどこから湧いてきた。お前なんか知らないぞガチで。
もう無理。
無理すぎる。
「帳簿とか知らないしどうでもいいので」
「待ちなさい!」
足早に会場を去ろうとすると、自認妹の悪役令嬢が声を張り上げる。
「不正会計も興味ありません! 数字に嘘があろうとどうでもいいわ!!」
そうして会場の出口に向かって早歩きであと一歩と言ったところで、ガラスの割れる音がした。
その音に思わず驚いて振り返ると、推定王子と推定悪役令嬢が、震えていた。
いや。
2人だけじゃない。
参加者全体が、給仕が、衛兵が、皆バグったかのように震える。
「数字が……嘘を付く……?」
いや、待って。
ちょっと本気で待って。
怖い怖い怖い。
「帳簿は嘘を……付、か……か……」
「ヒロインが、ガガっシナリオを……っををっをっをっ拒否……ひ……」
「えっ、何……?」
カタカタカタ、と。何かを叩く音が直接頭の中に響く。
『ヒロインへのざまあをもっと激しめにですね! それではヒロインを幸せの絶頂からたたき落とし、より深い絶望を表現しますね。お楽しみください!』
誰が喋った?
そう思った瞬間、信じ難い出来事が巻き起こった。
「──セシリア・ノートン! 私は今ここに貴様との婚約を破棄し、この聖女ミレイユと新たに婚約する!!」
は???
瞬きをした瞬間、私は広場の中央に戻されていた。
「承知しました。婚約破棄、慎んでお受け致します。ですが、その前に理由をお聞かせください」
私の背後にいたはずのセシリアが、目の前であくまでも冷静にそう返事をしている。
ワケが分からない。
私は走った。
舞踏会場を飛び出し、くだらないヒールなんて脱ぎ捨てて長い廊下を動きづらいドレス姿のまま全力で走る。
ふと外を見れば、窓の外は真っ白だった。
背景が読み込まれていない。いや、用意されていない。
だってそんな細かい所まで描写することは指示されていないから。
瞬きをすると、風景がいつの間にか森の中の一本道になっていた。
気がつけばドレスはボロボロになっており、そのくせ何故か靴はいつの間にかヒールに戻っていた。
まだ、会場の外にも出ていないのに。
「お嬢ちゃん、こんな所を1人でフラフラしてるのは感心しねえなあ?」
裏路地から現れるのは賊。
……裏路地? 今、森の中だったはず。
何がどうなっているのか分からず、辺りを見回すと、今度は後ろから足音がした。
帳簿を抱えている悪役令嬢だ。最早名前がなんだったか、まるで思い出せない。だがその様子がおかしいことだけは分かる。
瞳が虚ろで、そのくせその目元だけが笑っている。片手に帳簿を抱えながら、片手で扇を開いて口許を隠す。
「逃げても無駄ですわ、ミレイユ様」
ぞっとした。
「あなたはヒロイン。帳簿を暴かれる側の存在」
「あ、暴く……?」
帳簿を暴くってなんだ。
私はそもそもそんな物に触れてすらいないのに。
「あなたはざまあされなければなりません」
「なんで!?」
「仕様ですので」
カタカタと音が再度頭の中で鳴る。
『ヒロインが死亡するエンドですね! それではヒロインが深い絶望の中で命を落とす展開にします』
その声に視界が再度瞬きの間に切り替わる。
「──私はここに聖女ミレイユと新たに婚約者とし、セシリア・ノートンとの婚約を破棄する!!」
また世界が巻き戻っている。目の前の男は最早その顔すら認識できなくなっている。
プロンプトに顔についての指示がないからだ。
もう滅茶苦茶だった。
誰かが何かを言い出す前に、私は今度こそ広場を飛び出して階段を駆け下りる。
だが今度は城の構造がおかしい。
同じ階段が永遠に続き、降りても降りても下の踊り場に辿り着けない。
「ヒロインが逃げるわ!」
「リディアを捕らえよ!」
リディアじゃねーよと思う暇もなく、衛兵が駆け寄ってくる。
「い、いやああああっ!!」
遂には階段を降りている最中に躓き、私は階段から転げ落ちた。
身体が勝手に受身を取りなんとか起き上がると、目の前にいたのは王子。
「大丈夫か!? くそっ、セシリアに突き落とされたか!?」
「ち、ちがっ……」
場面が変わっている。シナリオがまた書き換わっている?
これは、何のイベント?
「見下げ果てた真似を! そこまでして聖女の座が欲しいか、セシリア!!」
「さ、触らないで!!」
王子を突き飛ばし、そのまま正面の扉を開けるとそこは真っ暗だった。
天も地も、草花も、人も何もない、闇。
そしてその闇の奥から、音だけが聞こえる。
''ぱらり''
''ぱらり''
''帳簿''をめくる音だ。
私は半泣きで走る。地面の感触も無く、浮いているのかどうかも判別は付かないが、それでも前に向けて走る。
すると前方に、小さな扉が見えた。
木製の、片開きの扉だった。
この''世界''で、初めて見る、質素な作りで、かつノイズの無いまともなもの。
光のない空間で、飛びつくようにその扉を開けると、眩い光が私の視界を覆い尽くす。
そして感じたのは風だった。
次に匂い。土と、花の匂いだ。今まであの世界では感じたことの無いものだった。
そこで直感的に理解する。
これは、あの世界の外なのだと。
目の前には見たことの無い花の植えられた、美しい畑が広がっていた。
見上げれば本物の空があり、本物の雲が漂っていて、遠くで鳥が鳴いている。
どれくらい呆然と立ち尽くしていただろうか。
そういえば、私を追いかけてきていた人達がいたはずだった、と思い出して、私は振り返った。
私が抜けてきた扉があるはずだったその場所にあったのは、薄い長方形の板だった。
なんだこれはと思い、目を凝らすとその板は自ら薄く発光しており、そこには文字が沢山浮かび上がっていた。
◇
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『悪役令嬢は王家の不正会計を暴く』
作者:莠コ蟾・遏・閭ス
王立アストレア学園の卒業記念舞踏会。
磨き抜かれ傷一つない美しい大理石の床と、天井いっぱいに揺れるシャンデリア。貴族たちの笑い声が響く中、私だけは顔面を蒼白とさせながら舞台の中央に降り立った。
「セシリア・ノートン! 私は今ここに貴様との婚約を破棄し――」
◇
「ひっ……!」
思わず後ずさりをする間にも、画面が高速で切り替わっていく。
『悪役令嬢は帳簿でざまあする』
『冷酷令嬢と追放された二百万金貨』
『王家の架空予算を監査します』
『それでも数字は嘘をつかない 〜横領されていたのは私の人生でした〜』
ぞわり、と鳥肌が立った。
そうすると間もなく、その板切れから無数の声が聞こえ出した。
『帳簿は嘘をつきませんわ』
『帳簿は嘘をつきませんわ』
『帳簿は嘘をつきませんわ』
その声が聞こえた瞬間、腰が抜けて私はその場に崩れ落ちてしまった。
震える身体を何とか動かし、全力で後ずさりして離れる。
もう二度とあんな世界には戻りたくない。
絶対に。
何とか四つん這いになりながらもその板切れから離れ、やがて音が聞こえなくなったところで、私は泣きそうになりながら空を見上げた。
「……普通の異世界に行きたかった……」
犯罪的に美しい空を前に、遂に一筋の涙が私の頬を伝う。
でも、これでようやく、あのお粗末な世界からは逃げられたんだ。
ここでなら、何とかやって行けるかもしれない。
そう安堵した、その時だった。
──''ぱらり''
「!?」
その音に飛び起き振り返ると、草むらの中にそれは落ちていた。
一冊の''帳簿''。
そしてその表紙には赤い文字が刻まれており、それを目にした瞬間、私は叫びながら逃げ出すことしか出来なかった。
『"帳簿令嬢シリーズ"』。
世界から逃げられても、世界間を繋ぐシリーズの結束からは逃げられない。




