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死神見習いが人間の学校に通ったら、恋を知ってしまった件

作者: 桜木ひより
掲載日:2026/04/27

俺の名前は黒崎レイ。見た目は17歳の高校生だが、正体は死神見習いだ。


死神界では300歳でやっとこの世で言う成人扱い。俺はまだ280歳の子供で、一人前の死神になるための最終試験を受けている最中だった。


その試験内容は「人間界で1年間生活し、人間の心を理解せよ」というものだ。


「なぜ人間はあんなにも生にしがみつくのか?」


死神界の長老たちは首を振る。


「最近の死神見習いは、魂を回収する際に人間に情けをかける者が多い。それでは務まらん」


そこで、人間の心を深く学ぶためのカリキュラムが組まれた。俺はその第一期生として、人間界の「桜ヶ丘高校」に転校することになった。


「よろしくお願いします、黒崎レイです」


4月の朝、俺は2年B組の教壇に立っていた。死神の力で外見は完璧に人間の高校生に変装している。


クラスメイトたちがざわめく。


「イケメンじゃない?」


「髪の毛真っ黒で、なんかかっこいい」


「でも、すごく冷たい感じがする」


最後の評価は正しい。俺は死神だ。感情というものがよく分からない。


「黒崎君、席はあそこです」


担任の田村先生に案内されて、俺は窓際の席に座った。


隣の席には、ショートカットの活発そうな女子がいた。


「よろしく、黒崎君!私は山田花音。何でも聞いて」彼女が元気よく話しかけてくれる。


「...ああ」


俺の素っ気ない返事に、花音は少し困ったような表情をした。


「あの、もしかして人見知り?」


「そういうわけでは...」


「それなら良かった!今度、クラスのみんなでカラオケ行くから、黒崎君も来ない?」


人間の娯楽「カラオケ」。死神の世界にはそんなものはない。


「考えておく」


授業が始まった。現代文、数学、英語。どれも死神界で事前に学習済みだったので、内容は理解できた。


でも、理解できないことがあった。休み時間になると、クラスメイトたちは笑ったり、泣いたり、怒ったり、様々な感情を見せる。


「昨日のドラマ見た?」


「最後、マジで泣いちゃった」


「あのシーン、ほんとキュンキュンしたー」


人間は些細なことで感情を大きく動かす。死神の俺には、その理由が全く分からなかった。


昼休み、俺は一人で屋上にいた。


死神界から支給された「人間観察ノート」を開いて、今朝の観察結果を記録する。


『人間は集団を好む。一人でいることを嫌がる傾向がある』


『些細な出来事で感情を大きく動かす。特に「恋愛」と呼ばれる感情は理解不能』


書いているうちに、屋上の扉が開いた。


「あ、いた」


花音だった。手に弁当を持っている。


「一人で寂しくない?良かったら一緒に食べない?」


「なぜ?」


俺の質問に、花音は首を傾げた。


「なぜって...友達だから」


「友達?」


「そうだよ。同じクラスなんだし」花音が俺の隣に座る。


「黒崎君、すごく真面目そうだけど、たまには肩の力抜いてみたら?」


「肩の力?」


「うん。もっとリラックスして」花音が俺の肩に手を置いた瞬間、不思議な感覚が走った。


温かい。


死神界では感じたことのない、温もりだった。


「どう?少し楽になった?」


「ああ...」


俺は戸惑った。これが人間の言う「温もり」なのだろうか?


その日から、花音は毎日俺のところにやってきて、一緒に昼食を食べるようになった。


「黒崎君って、どこから転校してきたの?」


花音の質問に、俺は事前に用意した架空の設定を答えた。


「北海道から」


「へー、雪国育ちなんだ。だから肌が白いのね」


違う。俺が死神だからだ。


「家族は?」


「...いない」


これは本当だった。死神は一人で生まれ、家族はおらず、一人で育つ。


「そうなんだ...ごめん、聞いちゃって」花音が申し訳なさそうにする。


「でも大丈夫!今度は私たちが家族みたいなものよ」


「家族?」


「そう。クラスのみんなで、黒崎君を支えてあげる」


その言葉に、俺は違和感を覚えた。なぜ人間は、赤の他人のために親切にするのだろう?死神界では、自分のことは自分で解決するのが当たり前だった。


「なぜそこまで...?」


「え?」


「なぜ俺のために、そこまでしてくれるんだ?」


花音は少し考えてから答えた。


「う〜ん、理由とかないかな」


「理由がない?」


「うん。黒崎君が困ってたら助けたいし、寂しそうだったら一緒にいたい」


「それだけ?」


「それだけ」


花音が微笑む。


「人間って、そういうものよ」


人間って、そういうもの。俺は花音の言葉をノートに記録した。


『人間は他者への思いやりを、理由なく持つことがある』


この学校に来てから数週間が過ぎた。俺は少しずつ人間の生活に慣れていった。授業を受けて、昼休みは花音と話して、放課後はいろいろな部活動や委員会を見学する。


「黒崎、部活はどうするんだ?」


担任の田村先生に聞かれた。


「部活?」


「ああ、うちの学校は全員部活か委員会への加入が原則でね」


俺は困った。死神の世界では部活や委員会というものが存在しない。


「何か興味のあることはないか?」


「...本を読むことくらい」


「それなら図書部はどうだ?」


こうして、俺は図書部に入ることになった。


図書部の部室は校舎の3階にある小さな部屋だった。


「新入部員の黒崎です」


教室に入ると、一人の女子生徒がいた。長い黒髪に眼鏡をかけた、知的な雰囲気の美少女だった。


「白川雪乃です。よろしく」


彼女は本から顔を上げて、軽く会釈した。


「読書部基本的に個人活動です。好きな本を読んで、たまに読書会をする程度」


「分かった」


俺は適当な本を手に取った。『恋愛小説集』という文字が目に入る。


「恋愛...」


「興味があるんですか?」雪乃が俺を見つめる。


「人間の感情について学びたくて」


「それは面白い視点ですね」雪乃が微笑む。


「でしたら、こちらの本がおすすめです」


彼女が差し出したのは『人間の心理学』という専門書だった。


「ありがとう」


俺は本を受け取った。雪乃の指先が俺の手に触れた瞬間、またあの温もりを感じた。


花音の時とは少し違う、静かな温もりだった。


「黒崎さんは、人の心に興味がおありなんですね」


「ああ」


「私も人間観察が好きなんです」雪乃が眼鏡を外して、俺を見つめる。


「特に、黒崎さんのような謎めいた人は興味深いです」


「謎めいた?」


「はい。まるで別の世界の人みたい」俺は心臓が止まりそうになった。まさか正体がバレたのか。


「でも、それが魅力的です」


雪乃が微笑む。その笑顔に、なぜか俺は見とれてしまった。


美しい、と思った。


死神が人間を美しいと感じる。黒崎にとってこれは大きな変化だった。


図書部での時間が、俺にとって特別なものになっていった。雪乃と一緒に本を読み、人間の心について議論する。


「この小説の主人公、なぜこんな行動を取るのでしょうか。」雪乃が恋愛小説の一節を指差す。


「恋人を守るために自分を犠牲にする...理解できません」


「それは愛情があるからです」


「愛情?」


俺は首を傾げる。死神には愛情という概念がない。


「相手のことを自分よりも大切に思う気持ちです」


「自分よりも?」


「はい。愛する人のためなら、自分がどうなってもいいと思える感情」


雪乃の説明を聞きながら、俺は不思議な気持ちになった。


最近、雪乃のことを考える時間が増えている。彼女が悲しそうにしていると胸が痛くなるし、笑顔を見ると嬉しくなる。これが、人間の言う「愛情」なのだろうか?


一方、花音との関係も深くなっていった。


「黒崎君、今度の文化祭、一緒に回らない?」


「文化祭?」


「学校のお祭りよ。各クラスが出し物をするの」


「そうか」


「私たちのクラスは喫茶店をやるのよ。黒崎君もウェイターやってもらうから」


気がつくと、俺は文化祭の準備に巻き込まれていた。


「黒崎、コーヒー運んで」


「はい」


「黒崎君、こっちのテーブルも片付けて」


「分かった」


忙しく働いているうちに、俺は気づいた。疲れているはずなのに、なぜか苦しくない。クラスメイトたちと一緒に何かを作り上げる充実感。これも人間特有の感情なのだろうか?


「お疲れ様!」


文化祭が終わった後、花音が俺に飲み物を差し出してくれた。


「ありがとう」


「黒崎君、今日はすごく良い顔してた」


「良い顔?」


「うん。楽しそうで」


楽しそう、か。


確かに、今日は楽しかった。人間と一緒に働くことの楽しさを知った。


「花音」


「うん?」


「俺は...変わったのか?」


「変わった?」


「転校してきた頃と比べて」


花音は少し考えてから答えた。


「うん、すごく変わったよ」


「どんな風に?」


「最初は氷みたいに冷たかったけど、今は温かい」


温かい。俺が?


「人間らしくなった、って感じかな」


人間らしく...。


その夜、俺は死神界に報告書を送った。


『人間の感情について、少しずつ理解できるようになってきました』


『特に「愛情」「友情」「楽しさ」といった感情を体験中です』


翌日、死神界から返信が来た。


『順調な成果だ。引き続き観察を続けよ』


『ただし、感情移入しすぎないよう注意せよ』


感情移入しすぎる?俺は大丈夫だ。まだ死神としての自覚はある。


...本当に?


秋が深まったある日、俺に初めての「死神の仕事」が舞い込んだ。


『緊急指令:魂の回収』


『対象:桜ヶ丘高校2年A組 田中太郎 寿命:明日午後3時』


俺は愕然とした。


田中太郎は俺のクラスメイトだった。いつも明るくて、みんなから愛されている男子生徒だ。


明日の午後3時に死ぬ?


「どうしたの、黒崎君?顔色悪いよ」


花音が心配そうに俺を見つめる。


「...何でもない」


俺は嘘をついた。


田中の死を防ぐことはできない。それが死神の掟だ。定められた運命に逆らうことは許されない。


でも...。


放課後、俺は図書部に向かった。なんとなく、雪乃に相談したかった。


「雪乃」


「はい、どうしました?」


「もし...仮の話だが」


俺は慎重に言葉を選んだ。


「もし、友達が明日死ぬと分かったら、君はどうする?」


雪乃が本から顔を上げる。


「突然、何を...?」


「答えてくれ」


「...助けます」


雪乃がきっぱりと答えた。


「どんな方法を使ってでも、友達を救います」


「たとえ、それが運命だったとしても?」


「運命なんて関係ありません」


雪乃が俺を見つめる。


「大切な人を失うのは嫌です」その言葉に、俺の心は激しく揺れた。


翌日、俺は田中を見つめていた。


午後2時50分。あと10分で彼は死ぬ。田中は普段と変わらず、友達と楽しそうに話している。自分の運命を知らずに。


午後2時55分。田中が立ち上がった。トイレに向かう。


廊下を歩く田中の背中を見ながら、俺は葛藤していた。死神としての義務と、友達を救いたい気持ち。


午後2時58分。田中が階段を下りようとした時、足を滑らせた。このまま落ちれば、首を打って即死する。


運命の瞬間だった。俺は迷わず走った。


「田中!」


俺は田中の体を支えて、転落を防いだ。


「あ、危なかった...ありがとう、黒崎」田中が俺に笑いかける。


午後3時1分。


田中は生きていた。その代わり、俺は死神の『至急帰還せよ』


俺は覚悟を決めて死神界に戻った。


「黒崎レイ」


長老会の前に立つ俺。


「貴様は死神の掟を破った」


「はい」


「運命に逆らい、定められた死を妨げた」


「はい」


「弁明はあるか?」俺は顔を上げた。


「彼は俺の友達です」


「友達?」長老たちがざわめく。


「死神に友達など存在しない」


「でも、俺には存在します」俺は堂々と答えた。


「俺は人間の心を学びました。愛情を、友情を、そして大切な人を守りたいという気持ちを」


「それは感情移入のしすぎだ」


「違います」俺は首を振る。


「これが俺の答えです。人間の心を理解した結果です」長老たちが議論を始めた。


しばらくして、一人の長老が口を開いた。


「黒崎レイ、貴様を死神見習いから除名する」


俺は予想していた処分だった。


「ただし」長老が続ける。


「貴様の報告書は非常に興味深かった」


「え?」


「人間の心についての考察、感情の分析、そして実際の行動」


「これほど人間を理解した死神見習いは初めてだ」俺は混乱した。


「それで、新しい提案がある」


「提案?」


「人間界と死神界の橋渡し役になってもらいたい」長老が説明してくれた。


「これからは、人間の心を理解できる特別な死神として、両方の世界を行き来してもらう」


「それは...」


「人間界での生活も続けて構わない」


俺の心が躍った。


花音や雫乃と一緒にいられる。


「ありがとうございます」


人間界に戻った俺を、みんなが温かく迎えてくれた。


「黒崎君、昨日急にいなくなったから心配したよ」


花音が俺の手を握る。


「もう突然いなくならないでね」


「ああ、約束する」


図書部でも、雫乃が安心したような顔をしてくれた。


「お帰りなさい、黒崎さん」


「ただいま、雫乃」俺は彼女の手を取った。


「実は、君に話したいことがある」


「何でしょう?」


「俺の正体について」


俺は雫乃に全てを話した。死神見習いであること、人間の心を学ぶために来たこと、そして彼女への気持ち。


「信じられないかもしれないが...」


「黒崎くんのことなら、信じます」


雫乃があっさりと答えた。


「最初から、黒崎さんは普通じゃないと思ってました」


「怖くないのか?」


「怖くありません」


雫乃が俺の頬に手を当てる。


「黒崎さんは優しい人だから、それに嘘なんかつかない人だと知っています。」


「俺は死神だぞ」


「でも、友達を救った」雫乃が微笑む。


「それが黒崎さんの本当の姿です」俺は雫乃を抱きしめた。


「君を愛してる」


「私も愛してます」


こうして、俺の新しい人生が始まった。昼間は人間として学校に通い、夜は死神として両方の世界を繋ぐ仕事をする。花音とは親友として、雫乃とは恋人として、それぞれ大切な関係を築いている。


「黒崎、今度のテストの範囲教えて」


「黒崎君、一緒にお弁当食べよ」


「黒崎さん、新しい本が入りましたよ」


みんなの声に囲まれて、俺は幸せを感じていた。死神だった俺が、こんなにも温かい感情を持てるなんて。人間の心を学ぶために始めた生活が、俺の人生を変えてくれた。


ある日、田中が俺のところにやってきた。


「黒崎、あの時はありがとう」


「あの時?」


「階段から落ちそうになった時」


田中が俺の肩を叩く。


「君がいなかったら、俺は死んでたかもしれない」


「...どういたしまして」


「これからもよろしく、親友」


親友。


死神の俺に、親友ができた。夕日が教室を染める中、俺は窓の外を見つめた。死神界と人間界、二つの世界を行き来する毎日。でも、それが俺にとって最高の人生だった。人間の心を学んだ結果、俺自身が人間らしくなった。


愛情、友情、思いやり。


これらの感情を持った死神として、俺はこれからも生きていく。両方の世界で、大切な人たちと共に。


その後。


3年生の春。俺たちは卒業を迎えた。


「黒崎君、高校生活はどうだった?」


花音が卒業式の後で聞いてくれた。


「最高だった」


俺は心から答えた。


「君たちと出会えて、本当に良かった」


「私たちもよ」


花音が涙ぐむ。


「黒崎君と友達になれて幸せだった」


雫乃も俺の隣にやってきた。


「これからも、ずっと一緒ですよね?」


「もちろん」


俺は雫乃の手を握る。


「俺はこの世界で生きていく」


「死神のお仕事は?」


「続ける。でも、君たちと一緒にいる時間も大切にする」


三人で校舎を見上げた。3年間過ごした、思い出の場所。ここで俺は人間の心を学び、愛を知った。死神見習いとして始まった人生が、こんなにも素晴らしいものになるなんて。


「さあ、新しいスタートね」


花音が元気よく言う。


「大学でも、みんなで頑張ろう」


「はい」


雫乃も頷く。


俺たちは手を繋いで歩いた。死神と人間、二つの世界を繋ぐ俺の物語は、これからも続いていく。大切な人たちと共に、愛と友情に満ちた日々を歩んでいく。人間の心を学ぶために始めた生活が、俺に最高の宝物を与えてくれた。それは、愛する人たちとの絆だった。


【完】

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