安息なき父の決断 —観測層の霧の向こうに—
白い道が尽き、視界の前に広がったのは巨大な光の渦だった。
中心は淡く脈動し、まるで静かな海の心臓のように鼓動している。
これこそが――未来核。Core-Λ(コア・ラムダ)。
「ここまで……来た。」
レオンの胸の奥で、EP95で救い出した“誰かの存在線”が、核の脈動と同調して激しく震える。
だが、その瞬間、空間に「ノイズ」が走った。
ジジッ、という耳障りな音。
美しいはずの光の渦の一部が、ザラついたモノクロの砂嵐に変化する。
「……やはり来たか、レオン。」
背後で黒い霧――EP93の“影”が立ち上る。
だが今日の影は、いつもと違っていた。その輪郭の端々に、本来この世界には存在しない**「数字の列」**が、血のように滴り落ちている。
「ここが未来核。お前の選んだ未来線が“確定”へ向かう中心だ。だが……」
影が笑う。その笑い声に、遠くで鳴る**「自動小銃の乾いた音」**が混じった。
「“外側”が、お前を必要としている。未来核の外側……構造層のさらに外。そこでは、お前のような『剣と魔法』の物語など、一欠片のデータに過ぎないのだよ」
「どういう意味だ。外側だと……?」
レオンが問い返した瞬間、未来核が激しく明滅した。
蒼い光が溢れ、影を弾き飛ばす。その光の中で、レオンは「見て」しまった。
未来核の表面に映し出されたのは、美しいファンタジーの未来ではない。
高層ビル群のシルエット、雨に濡れたアスファルト、そして「いそしぎ」と書かれた古びた看板。
「その存在(蒼い光)こそが……俺が排除しようとしているものだ!!」
影が叫ぶ。
「その者は未来核に認識されていない! 存在が矛盾している! なぜなら、それは**『次の物語』**の残滓だからだ!!」
空間が砕ける。
未来核から放たれた光は、もはや魔法の輝きではなく、高輝度の液晶パネルが放つような、無機質な白さだった。
「ぐっ……未来核が……再計算を始めた……!? まだ早い、まだ『1990年』には届かないはずだ!!」
影は形を崩しながら消えていく。
静まり返った空間で、レオンの胸の奥から声が響いた。
『……レオン……』
その声は、優しく、どこか哀しい。
光の中に浮かび上がったのは、見慣れた仲間の姿ではなかった。
セーラー服のような奇妙な衣装を纏い、短銃を手に微笑む少女の幻影。
「お前は……誰だ……?」
レオンの手が光に触れる。
その瞬間、彼の脳内に、この世界には存在しないはずの飲み物の名前が浮かんだ。
(――モカ。それは、未来の味がする飲み物だ――)
光が炸裂し、レオンの意識は白濁した「システム」の中へと飲み込まれていった。




