師の告白:終焉の設計図の『最後の部品』は、過去の主人公の安息だった
暗い通路を歩きながら、レオンは背中に重い違和感を感じていた。
B.Z.E.(基盤位相領域)に足を踏み入れてからというもの、
世界の感覚が微妙にずれ続けている。
歩けば歩くほど、床は自分の足に合わせて形を変え、
壁のように見える光の層は、触れもしないのに震えた。
(……ここの時間は流れているのか?
それとも、俺が“時間を持ち込んでいる”だけなのか。)
進むほどに、現実味が薄れていく。
そのとき、背後で何かが割れる音がした。
振り返ると、道の中央に、裂け目が浮かんでいる。
まるでガラスの表面に入ったひびが、空間全体に広がったような光。
そのひびから、一つの“影”が落ちてきた。
レオンは走り寄った。
「……また未来断片か?」
影はゆっくりと人の形をとり、重い息を吐いた。
青年――しかし輪郭が薄く、揺れている。
青年は震える声で言った。
「ここは……どこだ?
俺は……確か……“終わるはずの未来”に……」
(終わるはずの未来――つまり、選ばれなかった未来の住人だ。)
レオンは静かに問いかけた。
「どうしてここへ来た?」
青年は苦しそうに首を振った。
「分からない……ただ……突然、道が閉ざされて……
次の瞬間、光に引きずられて……ここへ……」
(……EP94で俺が“選ぶ”と決めた未来線の余波が、もう始まっているのか。)
青年の存在が薄れ始めている。
このまま放置すれば、完全に消えてしまう。
レオンは膝をつき、青年の肩に手を置いた。
「落ち着け。まだ消えるな。」
その瞬間、青年の胸に薄い光が灯る。
レオンの観測者権限の作用だ。
存在の揺らぎを一時的に安定させるだけの、ごく小さな干渉。
青年は息を整え、かすれた声で言った。
「……あなたは……誰だ?」
「俺はレオン。
“未来の枝を歩く者”だ。」
青年の目が驚きで開く。
「じゃあ……あなたが……“選んだ”のか。
俺たちの線が消える原因を……」
レオンは痛む胸を押さえた。
「俺は――選んだ。
ただ、お前たちを犠牲にしたつもりはない。」
青年は微笑んだ。
「そんな顔をするな。
未来は……どれか一つしか残れない。
どれが正しいかなんて……誰にも分からない。」
青年の身体が透明になっていく。
レオンは必死に叫んだ。
「待て! お前を戻す術があるかもしれない!」
青年は静かに首を振った。
「戻る場所なんて……もうないよ。
でも、ひとつだけ伝えたい。
――“消える側にも理由がある”。」
「理由……?」
青年の輪郭が薄れ、声だけが残る。
「あなたが選んだ未来の先に……
“触れてはならない存在”がいる。
そいつが……俺たちを弾いたんだ。」
レオンは息を呑んだ。
(触れてはならない存在……?
誰だ?
B.Z.E.の管理層か?
それとも――)
思考が深まる前に、青年は光となって散った。
沈黙が戻る。
レオンは拳を握りしめた。
「……俺が選んだ未来の先で、誰が待っているんだ。」
その瞬間、床の光が揺れ、前方に一本の白い道が現れた。
誘われるように伸びる道――EP94で見ることになる未来核への導線だ。
レオンは静かに歩き出した。
「確かめるしかない。
俺が進む先に“何が”いるのか、
俺がこの世界に残すものが“何なのか”。」
足音が響くたびに、周囲の光の層がわずかに共鳴する。
B.Z.E.そのものが、レオンの選択を“監視している”ようだった。
レオンは背筋を伸ばし、道の奥へ向かった。
未来の枝はすでに選ばれた。
あとは、その先で待つ存在と向き合うだけだ。




