世界は、レオンに「負け役」を演じさせたがっている
辺境の街・リュスト。
珍しく、
レオン宛ての指名依頼が届いていた。
「……指名?」
受付嬢が、少し困った顔で言う。
「王都からです。
正式な、貴族依頼で……」
嫌な予感が、した。
《指名依頼》
依頼内容:
新進貴族パーティへの同行・護衛
注記:
依頼達成条件に
“依頼主の功績を優先すること”
(……はっきり書くな)
レオンは、内心で苦笑した。
(要するに、
俺は“引き立て役”だ)
依頼先。
王都寄りの街で、
若い貴族冒険者たちと合流する。
装備は豪華。
態度も、自信満々。
「君が、辺境で噂の冒険者か」
リーダー格の青年が、
上から目線で言う。
「今回は、
我々が主役だ。
分かっているね?」
「……了解」
レオンは、否定しない。
目的地は、
中位ダンジョン。
本来なら、
安定攻略が可能な場所。
だが――
入った瞬間、
違和感が走る。
(……配置が、変だ)
魔獣が、
“盛られている”。
数も、質も。
(世界が、寄せてきてるな)
戦闘開始。
貴族パーティは、
案の定、押され始めた。
「くっ……!」
「予定と違うぞ!」
誰かが、叫ぶ。
(ここで俺が前に出れば、
一瞬で終わる)
だが。
《収納》が、
初めて“沈黙”した。
反応しない。
(……あ?)
次の瞬間。
レオンの足が、止まる。
“最適解”が、見えない。
(来たな)
世界は、
彼にこう言っている。
「ここで負けろ」
「失敗しろ」
「そういう役回りだ」
貴族の一人が、
転倒する。
「助けろ!
何をしている!」
怒鳴り声。
(……なるほど)
(これは、
俺の評価を下げるための
“物語”だ)
レオンは、
一瞬だけ考えた。
無双するか。
従うか。
だが――
どちらも、違う。
「……全員、下がれ」
低い声。
貴族たちが、
一瞬、呆ける。
「指示を出すな!
君は護衛だろう!」
「だからだ」
レオンは、前に出た。
「護衛として、
最善を選ぶ」
剣を、構える。
だが――
踏み込まない。
代わりに。
「退路を確保する。
戦うな、逃げろ」
「な……!」
「文句は後で聞く」
混乱の中、
レオンは“勝たない戦い”を選んだ。
敵を倒さない。
ただ――止める。
時間を稼ぎ、
被害を出さず、
全員を撤退させる。
結果。
討伐は、失敗。
功績は、
貴族につかない。
だが――
死者も、重傷者もゼロ。
帰還後。
ギルドは、静まり返った。
「……討伐失敗、ですね」
受付嬢が、慎重に言う。
「はい」
レオンは、否定しない。
《評価更新》
討伐成功:失敗
生存率:100%
判断評価:最高
「……え?」
端末を見た受付嬢が、
目を見開く。
「評価……
下がって、いません」
上階。
管理者側。
警告音が鳴る。
《物語誘導:不成立》
《対象:
役割を“拒否”》
白髪の男が、
深く息を吐いた。
「……勝ちも、負けも選ばなかったか」
「彼は――」
「脚本の外に出た」
その夜。
レオンは、
宿のベッドに座っていた。
《収納》が、
静かに表示する。
《取得:
役割拒否
物語耐性(微)》
「……物語、ね」
小さく呟く。
追放された最弱は、
今日、初めて“勝たなかった”。
だが――
それは敗北ではない。
世界が用意した役を、
演じなかっただけだ。
そして世界は、
はっきりと理解した。
この男は、
“主人公”にも
“負け役”にも
なってくれない。




