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絶望の劇場 ―― 観測者に愛された「最強」という名の家畜

力を捨て、最弱として因果の底に潜伏していたはずのレオン。しかし、世界の残酷な記述は、彼が手に入れたはずの「無力な平穏」を許さなかった。 気づけばレオンは、上下左右すら不明瞭な、純白の「深層ステージ」の中央に立たされていた。


全方位から突き刺さるのは、第69話で一度は拒絶したはずの、あの「外側の観測者(読者)」たちの悍ましいほど熱狂的な視線。 それは魔力的な攻撃よりも遥かに鋭く、レオンの自尊心をズタズタに切り裂いていく。


「さあ、見せて。皆があなたの『新しい苦悩』を待っているのよ。絶望し、それでもまた最強へと返り咲く……最高にドラマチックなレオン様を」


まばゆいスポットライトの下、一人の少女が立っていた。 エリナ。 だが、それは第84話で光の中に消えたはずの、愛する彼女ではない。観測者たちが「こうあってほしい」と願う理想、欲望、そして嗜虐心を煮詰めて形にした、仮想の「ヒロイン像」だ。


「……エリナ、お前まで、彼らの玩具に成り下がったのか」


「玩具? 心外だわ、レオン様。これは『最上の愛』よ」 エリナ(仮想体)は完璧な笑顔を浮かべ、死人のような冷たさでレオンを抱きしめる。 「あなたが第70話で少年の足を奪ったのも、第81話で惨めに力を捨てたのも、すべてはこの物語を盛り上げるための『最高の伏線』。……さあ、もっと苦しんで。もっと無様に叫んで。そうすれば、数字が上がり、世界はもっとあなたを存続させてくれるわ」


《システムメッセージ:強制演出モード・オン》 《役割固定:悲劇を背負いし不屈の最強》


レオンの意志とは無関係に、第81話で封印したはずの力が、観測者たちの「期待」という名の手垢にまみれた魔力となって身体へ逆流し始める。 「強さ」が彼を救う力ではなく、彼を「最高の娯楽」として固定し続けるための鎖へと変貌していた。


「……笑わせるな」 レオンは、血の混じった唾を吐き捨てた。 「オレの人生を、お前たちの指先一つで消費されてたまるか。……オレが望んだ安息は、お前たちが読みたがるような、綺麗事のハッピーエンドの中にゃあ無いんだよ」


レオンは、あえて身体へ充填される魔力を拒絶し、己の肉体を内側から崩壊させ始める。観測者が望む「最強の復活」を真っ向から否定し、物語の進行を強制的にバグらせるための自傷行為。


「エリナ、お前を連れ戻すのは、観測者が書いた『感動の再会シナリオ』なんかじゃない。……オレ自身の、誰にも見せない『汚れきった、醜い独占欲』だ」


ステージが激しく点滅し、観測者たちの期待は失望と怒りのノイズへと変わっていく。 レオンは、眩い光の檻の中で、ただ一人、世界の記述そのものを食い破るような凶暴な眼差しを、虚空の向こう側にいる「あなた」へと向けた。

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