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分かれた道の、その先

歪みの嵐は、

音もなく通り過ぎていた。


そこにあったのは、

静寂。


レオンは、

立ち尽くしていた。


「……遅かったか」


分裂から、

どれほど経ったのか。


時間は、

もう意味を持たない。


だが――

痕跡は、残っている。


崩れた存在密度。

引き裂かれた空間。


そして――

人の“名残”。


「……来たか」


掠れた声。


振り向く。


一人だけ、

残っていた。


分裂組の男。


かつて、

「全員で生きる」と言った男。


「……他は?」


男は、

答えなかった。


沈黙が、

すべてを語る。


「……そうか」


レオンは、

一歩、近づく。


「……止められたか?」


男が、

低く聞く。


レオンは、

首を振った。


「……無理だ」


「ここは――」


「判断を先延ばしにすると、

 全員死ぬ場所だ」


男は、

笑った。


「……だよな」


「でも……

 分かってても、

 選べなかった」


男は、

空間を見つめる。


「……誰かを切る、

 なんて」


「……できなかった」


《収納》が、

静かに表示する。


《精神負荷:共鳴》


(……共鳴?)


レオンは、

一瞬、視線を落とす。


「……お前は」


「間違ってない」


男が、

目を見開く。


「……は?」


「間違ってない」


レオンは、

繰り返す。


「ここでは――」


「正しい判断が、

 必ず正解になるわけじゃない」


男は、

乾いた笑いを漏らす。


「……じゃあ、

 何が悪かった?」


レオンは、

答える。


「……場所だ」


「世界の外は――」


「猶予をくれない」


沈黙。


男は、

肩を落とす。


「……皆」


「最後まで……

 俺を、信じてた」


レオンは、

何も言えなかった。


そのとき。


空間が、

軋む。


「……来る」


男が、

呟く。


「……もう、

 動けない」


レオンは、

一瞬、迷い――


「……背負う」


男を、

支える。


「……いい」


男は、

小さく首を振る。


「……ここで」


「……終わりだ」


「……頼む」


「俺の判断が、

 全部間違いだったって、

 言わないでくれ」


レオンは、

歯を食いしばる。


「……言わない」


「……それは、

 真実じゃない」


男は、

微かに笑った。


「……ありがとう」


次の瞬間。


歪みが、

襲う。


レオンは、

男を離さない。


だが――

空間が、

 二人を分ける。


「……行け!」


「……生きろ!」


声が、

引き裂かれる。


《選択》


《救出不能》


レオンは、

一歩、下がる。


歪みが、

閉じる。


静寂。


そこには、

もう誰もいない。


レオンは、

その場に膝をつく。


《取得》


《不可逆選択の肯定》


《後悔耐性(微)》


「……くそ」


拳を、

地面に叩きつける。


(助けられなかった)


(それでも――)


(あの判断が、

 間違いだったとは、

 言えない)


影の人が、

背後に立つ。


「……見たか」


「……ああ」


「……なら、

 覚えておけ」


「次は、

 もっと残酷になる」


レオンは、

立ち上がる。


「……分かってる」


「でも――」


「もう、

 目を逸らさない」


遠く。


歪みの向こうで、

“何か”が蠢く。


《未定義秩序:変質》


《観測外集団:選別開始》


レオンは、

仲間のいる方角を向く。


(……生き残った者には)


(この重さを、

 背負わせない)


追放された最弱は、

この日。


完全に理解した。


世界の外では、

 善意は

 免罪符にならない。


だが同時に――


「判断を放棄すること」こそが、

 最大の罪だ。

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