評価を落とす罠は、だいたい雑で分かりやすい
辺境の街・リュスト。
ギルドの掲示板に、
一枚の依頼が張り出された瞬間――
空気が、変わった。
「……おい、これ」
「Sランク……?
辺境で?」
「しかも……
“単独不可”?」
冒険者たちが、ざわめく。
《特別依頼》
対象:深層魔獣《黒鎧竜》
危険度:S
参加条件:複数名
注記:単独行動は禁止
レオンは、
その依頼書を、じっと見ていた。
(……妙だな)
Sランク魔獣が、
辺境に現れること自体、異例。
しかも――
単独禁止。
(俺に、向けてるよな)
「なあ、レオン」
背後から、
声をかけられる。
振り返ると、
街の冒険者数人が立っていた。
「一緒に行こうぜ。
あんたがいれば、安心だ」
「……人数、足りてるか?」
レオンが尋ねると、
男は、少しだけ視線を逸らした。
「まあ……
多いほうがいいだろ?」
(来たな)
出発。
森を越え、
深層域へ。
道中、
違和感は積み上がっていく。
隊列が、微妙に乱れる。
合図が、遅れる。
足音が、不自然に響く。
(……下手だな)
わざと、
だとしたら――
下手すぎる。
やがて、
黒鎧竜が姿を現す。
咆哮。
圧倒的な威圧感。
普通なら、
ここで恐慌が起きる。
だが――
「行くぞ!」
誰かが、
タイミングを無視して突っ込んだ。
「待て――!」
レオンの声は、
届かない。
完全に、事故る動き。
(なるほど)
レオンは、理解した。
(俺が失敗したように見せたいんだ)
黒鎧竜の尾が、
一人を弾き飛ばす。
「ぐあっ!」
「回復!
早く!」
だが――
回復役が、動かない。
「魔力が……!」
(最初から足りてないな)
「レオン!
前に出ろ!」
誰かが叫ぶ。
(責任、押し付ける気か)
レオンは、
一歩前に出た。
「……分かった」
次の瞬間。
世界が、
静かになる。
踏み込み。
剣閃。
黒鎧竜の首が、落ちた。
一撃。
沈黙。
魔獣が、
音を立てて崩れ落ちる。
誰も、
言葉を発せない。
《収納》が、反応する。
《取得:
竜種耐性
威圧無効
評価安定補正》
(……評価、安定?)
「……え?」
誰かが、
間抜けな声を出した。
「い、今……?」
「……Sランク、だよな?」
黒鎧竜の死体は、
ゆっくりと消える。
証拠は、
確実に残る。
帰還後。
ギルドは、
一瞬、騒然となった。
「単独不可依頼を、
実質単独討伐……?」
「しかも、
被害ゼロ……?」
だが。
問題は、
その後だった。
「……おかしいですね」
受付嬢が、
端末を見つめて首を傾げる。
「レオンさんの評価、
下がるどころか――」
一拍。
「上がっています」
「……は?」
上階。
管理者側のモニターが、
警告色に染まる。
《評価操作:失敗》
《観測対象:
干渉を“結果で否定”》
白髪の男が、
額を押さえた。
「……雑すぎたな」
「露骨すぎた」
「彼は――」
一人が、
静かに言う。
「試練を“踏み台”にする」
辺境の宿。
レオンは、
ベッドに腰掛けていた。
「……罠だったな」
怒りは、ない。
ただ――
少し、呆れている。
《収納》が、
静かに表示する。
《外部評価:上昇
干渉耐性:獲得》
「……干渉耐性?」
レオンは、
小さく息を吐いた。
「ますます、
面倒になってきたな」
追放された最弱は、
初めて“意図的な悪意”を踏み越えた。
しかも――
力で、ではない。
結果で、
黙らせた。
そして世界は、
理解し始める。
この男は、
“評価を操作する側”に回りつつあると。




