「主人公は死ねない」:読者の熱狂が世界を再起動させ、最高の相棒が裏切る瞬間
夜空がひどく静かだった。
星々は本来よりも淡く、まるで世界そのものが息を潜めているように見える。
レオンは崩れかけた祭壇の前に立ち、ゆっくりと周囲の気配を探った。
この場所には、今まで感じたことのない圧力が渦巻いている。
魔力でも瘴気でもない。
もっと深い、世界の底を流れる「意志の重み」のようなものだった。
エリナがそっと近づく。
「……レオン、この空気……怖いくらいよ。
世界が、何かを“待っている”みたい。」
レオンは頷いた。
そう、今の世界は危機に瀕しているわけでも、すぐに崩れるわけでもない。
ただ――“判断”を求めて揺れている。
「気づいているか、エリナ。
この揺れは、世界そのものが迷っている。
進むべき未来を決められずにいる。」
「未来を……?」
「俺が創世収納で理を整え、歪みを押し返し続けた結果だ。
世界は選択肢を持ってしまったんだ。
本来ならありえない、複数の行き先を。」
エリナは息を呑んだ。
レオンは夜空を見上げる。
「これは“再起動”じゃない。
世界が未来を決めかねている状態だ。」
そのとき、祭壇の下に埋まっていた石版がわずかに光り、文字が浮かび上がった。
古代語で書かれた短い文。
読めるはずのない言語なのに、不思議と意味が胸に流れ込んでくる。
──この世界は岐路にある。
──未来は三つ。
──選ぶのは、世界と最も深く結びついた者。
エリナが震える声で言う。
「三つの未来……それを“選ぶ”って……まさか、レオンが?」
「そういうことらしい。」
決断の重さが胸にのしかかった。
息子の未来を守るためにここまで来た。
世界の破綻を防いできた。
だが、その果てに「選択」が待ち受けているなど、誰が想像できただろう。
石版の光が強まり、三つの影のような投影が空中に生じる。
ひとつは、安定した未来。
だが可能性は乏しく、停滞した世界。
もうひとつは、大きな変革の未来。
だがその過程で、多くの犠牲を伴う。
最後のひとつは、未知の未来。
創世の理がまだ形にしていない、誰も見たことのない道。
「……難しい選択だわ。」
エリナは静かに言った。「ひとつを選べば、二つを捨てるのよ……」
レオンは拳を握った。
迷いがなかったわけではない。
だが、胸の奥に確かな熱があった。
「俺は――“未知”を選ぶ。」
エリナが息を呑む。
「理由は?」
「決まってる。」レオンは夜空を見つめた。「停滞した未来を選んだら息子は何も変えられない。犠牲の上に立つ未来も違う。
だけど……未知の未来なら、『可能性』が残る。」
過去の自分が追放された時、何も持っていなかった。
可能性すら奪われていた。
だからこそ、今の自分は未来を閉ざしたくなかった。
「可能性があるかぎり……選べるはずだ。
生き方も、誰を守るかも、何を成し遂げるかも。」
石版が応えるように強い光を放った。
世界が、まるで深呼吸するように揺れる。
すべてがレオンの意志に反応している。
「さぁ……見せてくれ。」
レオンは手を伸ばした。
「この世界が、どんな未来へ進みたいのかを。」
光が渦を巻き、夜空が白く満ちる。
風が逆流し、崩れかけた祭壇が震える。
まるで世界が新たな軌道へ乗る瞬間だった。
エリナが叫ぶ。
「レオン――!」
その声すら飲み込むように、白光は空へ昇り、世界の彼方へ広がっていった。
震えが静まり、夜空はゆっくりと元の姿を取り戻した。
レオンは深く息を吸う。
「……決まった。
世界は“未知への道”を選んだ。」
エリナはそっと微笑んだ。
「レオンが決めた未来なら……きっと、大丈夫。」
レオンは小さく頷いた。
未来はまだ輪郭を持たない。
だが、その曖昧さこそが希望になる。
二人は光の消えた祭壇を後にした。
世界は静かに――しかし確かに、新たな息を吹き返していた。




