表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

72/87

記述の改竄者:理(ことわり)を収納し、世界を再定義する右腕

王都から差し向けられた「討伐隊」は、これまでの騎士や冒険者とは決定的に異なっていた。


彼らには顔がない。 白装束に身を包み、手には「剣」ではなく、発光する「文字列の束」を握っている。 管理者直属の特殊個体――《記述執行官スクリプト・エニグマ》。


「対象レオン。存在確率:誤差範囲。これより『物理的削除』を開始する」


リーダー格の一人が無機質に告げると、彼らが掲げた文字列が空中で爆ぜた。 次の瞬間、レオンの周囲の「重力」が消失した。


「なっ……!?」


身体が浮き上がる。 単なる魔法ではない。この空間において「重力という概念」そのものが一時的にオフにされたのだ。 さらに、執行官が指を弾くと、今度はレオンの視界から「光」が奪われた。


(視覚を消された……!? いや、空間の『光の透過率』をゼロに書き換えられたのか!)


暗黒と無重力。 五感が狂わされる絶望的な状況の中、管理者の冷徹な声が脳内に響く。


『理解したか、レオン。  この世界のプログラムを握る我々に対し、個人の武力など無意味だ。  お前はもう、自分が何者であるかを認識することすらできなくなる』


だが。 暗闇の中で、レオンは静かに笑った。


「……面白いな。それが世界の『ルール』だって言うなら――」


レオンは右腕を突き出し、《収納》を全開にした。


「その『ルール』ごと、俺の袋に入れてやるよ」


《概念収納:有効範囲・定義レイヤー》


レオンの右腕から溢れ出した漆黒の渦が、自分を取り囲む「異常な空間」を根こそぎ飲み込み始めた。 「重力の消失」という現象そのものを収納し、「光の遮断」という記述をフォルダに放り込む。


瞬間。 世界が、音を立てて元に戻った。


レオンは着地し、驚愕に凍りつく執行官たちを見据える。 彼の右腕には、今しがた吸い込んだ「文字列の残滓」が青白く脈打っていた。


「な……馬鹿な。基盤記述ベース・データを直接奪い取ったというのか!?  それは管理者にのみ許された、第3観測層の権限……!」


「理屈は後でいい。」


レオンは掌に残る「重力の記述」を、今度は執行官たちに向けて**《放出》**した。


「お前らが消した重力だ。倍にして返してやる」


ドォォォォォンッ!!!


執行官たちの周囲だけ、重力が通常の数十倍へと跳ね上がった。 白装束の男たちは、悲鳴を上げる間もなく地面に叩きつけられ、その身体がノイズとなって砕け散る。


『……信じられん。観測者の分際で、世界のソースコードを武器に転用したか』


管理者の声に、初めて「焦燥」が混じる。


レオンは、自分の右腕をじっと見つめた。 ただの収納ではない。 今、俺は世界を形作る「言葉」に触れた。


「……見えてきたぞ。あんたたちが作っているこの『綺麗な物語』の裏側が。」


レオンの瞳が、青く発光する。 第3観測層の壁を、その意志が突破しようとしていた。


「これからは、俺が選ぶ。  何が残り、何が消えるべきかを――」


荒野に風が吹く。 だがその風さえも、今のレオンには「整理されるべき情報」のひとつに過ぎなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ