世界は、レオンを“観測対象”に指定した
王都。
冒険者ギルド本部――
そのさらに奥。
限られた者しか入れない、
円卓の間。
「……始めよう」
白髪の男が、
静かに口を開いた。
彼は、
ギルド創設期から生きる存在。
人ではない。
だが、敵でもない。
**“管理者側”**と呼ばれる者の一人だ。
「議題は一つ」
男が、指を鳴らす。
宙に、光の板が浮かぶ。
そこに映し出されたのは――
一人の青年。
「……レオン?」
誰かが、名を読み上げた。
「元・冒険者パーティ所属
追放歴あり
スキル:収納」
その説明に、
数名が失笑する。
「またか。
最近多いな、追放系」
「偶然の当たりだろう」
だが――
次の表示で、
空気が変わった。
《討伐成功率:92.4%》
《単独行動率:100%》
《戦闘時間:平均 4.1秒》
《被弾率:0%》
「……は?」
誰かが、声を漏らす。
「おかしい」
白髪の男が、
即座に言った。
「数値が“綺麗すぎる”」
「魔獣配置は、
自然発生ランダムだろう?」
「はい」
「依頼難度も、
操作していないな?」
「確認済みです」
「……それで、この結果か」
男は、
顎に手を当てた。
「まるで――
世界が彼に合わせている」
沈黙。
誰も、
反論できなかった。
「スキル《収納》……」
別の管理者が、
データを操作する。
「本来は、
非戦闘用・低成長指定」
「だが、
彼のログでは――」
表示が、切り替わる。
《取得対象:
能力値
戦闘判断
外部評価》
「……“評価”?」
誰かが、眉をひそめる。
「そんな取得対象、
仕様にない」
「ない、はずだ」
白髪の男は、
静かに言った。
「だが――
彼は、やっている」
「異常個体、ですか?」
若い管理者が、
慎重に問う。
「いや」
男は、首を振る。
「異常ではない」
一拍置いて。
「適応だ」
「世界が、
彼を切り捨てた」
「だから彼は、
世界の“評価”そのものを
力として取り込んだ」
「……皮肉だな」
誰かが、苦く笑う。
「自分を測る物差しを、
奪っただけか」
「問題は一つだ」
白髪の男が、
卓を軽く叩く。
「この先だ」
「評価が上がり続ければ、
彼は加速する」
「だが――」
一瞬、
表情が厳しくなる。
「評価は、
必ず反転する」
「下がった時、
彼はどうなる?」
沈黙。
それが、
答えだった。
「監視レベルを上げる」
男は、決断する。
「介入はしない」
「だが――
観測対象に指定する」
光の板に、
赤い印が刻まれた。
その頃。
辺境の街。
レオンは、
パンを齧りながら、空を見ていた。
「……今日は、静かだな」
魔獣も出ない。
依頼も少ない。
ただの、
平和な午後。
《収納》が、
一瞬だけ反応する。
《観測数:増加》
「……?」
表示は、
すぐに消えた。
気のせいかと思い、
レオンは気にしない。
だが。
遠く。
世界の“視線”が、
一つ増えた。
それは敵意でも、
善意でもない。
ただの――
確認。
追放された最弱は、
まだ何も知らない。
自分がもう、
「物語の外」ではなく――
“世界そのものに見られる側”になったことを。




