最良の選択、最悪の結末 ―― 善意が振りまく「因果の猛毒」
放逐の淵に踏みとどまるレオンは、消えゆく意識の中で、必死に《収納》の奥底に手を伸ばした。 そこには、かつて彼が救い、取り込んできた「捨てられた未来」の残滓が眠っている。彼はそれらすべての「痛み」と「願い」を燃料とし、強引に世界の理へと再干渉を試みた。
「この子だけは……この未来の雛だけは、絶対に消させない!」
第57話で出会った「小さな未来」。それを消去プログラムから守るため、レオンは自分の存在そのものを「防壁」として展開した。 理不尽な書き換えを、最強の意志でねじ伏せる。因果の糸を力技で結び直し、一人の子供の生存を「確定」させた。
《因果修正:完了。個体名:『未来の雛』の生存権を定義しました》
レオンは安堵し、荒い息をつきながら膝をついた。救えた。最強の力があれば、やはり運命は変えられる――そう確信した瞬間。 足元の「白い海」に、無数の亀裂が走った。
「……何だ、これは」
レオンの視界に、因果の「重力」が可視化される。 一人の命を無理やり救った反動。それは「保存の法則」に従い、等価の絶望を世界の別の場所へ転移させたのだ。 レオンが救った一人の輝きと引き換えに、遠く離れた辺境の村で、静かに暮らしていた少年の「平穏」が、黒い因果の渦に飲み込まれていく光景が脳裏をよぎる。
(あの子は……オレを『英雄』と呼んでくれた、あの村の……)
レオンの「善意の干渉」は、あまりに高密度すぎた。 彼が少年の運命をほんの数ミリ動かしただけで、その余波は少年の人生を粉砕し、逃げ場のない「不運」として定着してしまったのだ。 (これが、第70話で彼を地獄へと突き落とす、**「救済が引き起こした事故」**の決定的な起爆剤となる。)
影が、血の気が引いた顔でレオンを見つめる。 ――“レオン、やめて……。あなたが誰かを救うたびに、世界が『つじつま合わせ』のために、他の誰かを殺していく……。あなたの力は、もう救済じゃない。それは……呪いだ”
「オレは……ただ、正しいことを……」
《物語整合性維持:障害除去フェーズ2。レオン・グランを『余白』へ完全隔離します》
レオンの絶叫は、文字通り「消去」された。 最強の力で掴み取ったはずの「最良の選択」が、世界で最も残酷な「最悪の結末」へと繋がる因果の鎖。 その矛盾に心が折れかけた瞬間、レオンの意識は、光も色も、そして「救うべき他者」すら存在しない**第60話の「余白の地獄」**へと、真っ逆さまに突き落とされた。




