感謝されるほど、減っていくもの
依頼は、
よくあるものだった。
《通常依頼》
内容:連続小規模魔獣討伐
危険度:低
評価補正:中
「……また、これか」
レオンは、
掲示板を見て小さく息を吐く。
「いいじゃないか」
同行の冒険者が言う。
「数こなせば、
安定して評価が伸びる」
安定。
その言葉に、
少しだけ違和感を覚えた。
最初の現場。
魔獣は、
確かに弱い。
「右、回り込む」
「了解!」
指示は的確だった。
連携も、
問題ない。
魔獣は、
すぐに倒れる。
《討伐完了》
次。
次も。
その次も。
「……レオン、
休憩しないか?」
「……次で区切る」
区切り。
だが――
区切りは、来ない。
「……追加依頼だ」
ギルドの連絡員が言う。
「近くで、
似た被害が出てる」
「評価補正は?」
「……維持」
レオンは、
一瞬だけ目を伏せた。
(……増えないのか)
三件目。
四件目。
戦闘は、
問題ない。
だが――
同行者の動きが、
少しずつ鈍る。
「……大丈夫か?」
「平気だ」
「……顔色が悪い」
「評価、
落としたくないだろ」
その言葉に、
何も返せなかった。
五件目。
小さなミス。
魔獣が、
一瞬だけ突破する。
「……っ!」
子供が、
転ぶ。
レオンは、
間に入る。
間に合った。
被害は、
軽傷。
《依頼結果:成功》
村人たちは、
頭を下げる。
「ありがとう!」
「助かりました!」
その声が、
なぜか重い。
「……次、
行けるか?」
同行者は、
少し迷ってから頷く。
「……行こう」
夜。
全依頼完了。
評価ログが、
更新される。
《評価:微増》
それだけ。
「……これだけ?」
誰かが、
呟く。
「命張った割に……」
レオンは、
何も言えなかった。
宿。
誰も、
酒を飲まない。
「……なあ」
同行者が、
低い声で言う。
「俺さ……」
「しばらく、
休もうと思う」
沈黙。
「……評価は?」
「……下がるな」
「でも――」
「もう、
体が動かない」
レオンは、
視線を落とす。
(……正しい判断だった)
(誰も、
間違えていない)
それなのに――
(……何かが、
確実に削れている)
翌日。
同行者の一人が、
ギルドを辞めた。
理由は、
「体調不良」。
誰も、
責めない。
だが――
誰も、
止められない。
レオンは、
掲示板を見る。
同じような依頼が、
また貼られている。
(……終わらない)
(このやり方じゃ)
そのとき、
ふと思った。
(……俺が
抜けたら)
(この人たちは、
もっと苦しくなる)
胸が、
詰まる。
(……じゃあ)
(俺が、
残るしかないのか?)
その考えが、
当然のように浮かぶことに、
レオン自身が気づいてしまう。
(……これが)
(評価世界の、
正解か)
この日。
追放されるより前に。
レオンは、
初めて思った。
「頑張り続ける人間ほど、
静かに消えていく世界だ」と。




