評価を使った“あと”に来るもの
異変は、
ある日突然ではなかった。
むしろ――
静かすぎるほど、自然に始まった。
朝。
レオンは、
ギルドの掲示板の前に立っていた。
違和感。
掲示板は、
いつも通りだ。
依頼も、
ある。
だが――
(……視線が、
また来なくなった)
「……おはようございます」
受付嬢の声。
丁寧だが、
距離がある。
それは、
エピ19の頃と似ていた。
だが――
決定的に違う。
「……あの」
レオンが声をかける。
「俺の評価、
どうなってます?」
受付嬢は、
端末を確認する。
一瞬。
眉が、
わずかに動いた。
「……表記上は、
高評価です」
「ただ……」
「ただ?」
「依頼推薦アルゴリズムから、
外れています」
(……は?)
説明は、
淡々としていた。
評価は高い
功績も記録されている
だが
**「行動傾向が不安定」**と判断された
「不安定……?」
「はい」
受付嬢は、
言いづらそうに続ける。
「評価を拒否したり、
急に解放したり……」
「システム上、
予測不能な英雄として
分類されています」
(……なるほど)
(評価を“選んで使った”
結果か)
街。
人々は、
以前ほど話しかけてこない。
だが、
敵意もない。
「……英雄なんだよな?」
「でも……
なんか、怖くないか?」
「評価、
信用していいのか……?」
小さな声。
誰も、
面と向かって言わない。
《収納》が、
重く反応する。
《警告》
《外部評価:高
内部信頼度:低下》
《補正安定率:低》
(……安定率、低?)
昼。
レオンは、
単独で依頼に向かう。
危険度は、
B。
以前なら、
問題ない。
だが。
戦闘中、
《収納》の補助が、
一瞬だけ――
遅れる。
「……っ!」
被弾。
浅いが、
確実なミス。
(今の……
なんだ?)
魔獣は、
倒した。
だが――
汗が、止まらない。
《補正再計算中》
《評価依存度調整》
(……調整?
誰が?)
夜。
宿。
レオンは、
ベッドに腰掛ける。
身体が、
妙に重い。
《収納》が、
表示を出す。
《通知》
《評価解放の影響により、
一部成長履歴が
再分類されました》
「……再分類?」
《自己選択成長
→ 非安定要素》
《評価補正成長
→ 優先適用》
「……まさか」
理解する。
評価を使った瞬間。
世界は、助かった
だがシステムは
「彼は評価に戻る可能性がある」
と再判断した
結果――
“評価に依存しない成長”が、
例外扱いにされた
(……ふざけるな)
翌日。
王都。
緊急通達が出る。
《通達》
評価変動の激しい冒険者は、
重要案件から除外する
名前は、
書かれていない。
だが――
誰のことか、分かる。
レオンは、
拳を握る。
(俺は……
助けただけだ)
(評価を“使った”だけだ)
《収納》が、
低く反応する。
《安定化提案》
《評価依存度を
完全復帰させれば、
制限は解除されます》
沈黙。
(完全復帰……)
それは、
楽な道
安全な道
だが
二度と戻れない道
レオンは、
ゆっくりと首を振った。
「……断る」
《警告》
《外部制限:固定》
「いい」
レオンは、
立ち上がる。
「なら――
このまま行く」
遠く。
管理者側。
白髪の男が、
静かに頷く。
「……来たか」
「“揺り戻し”だ」
「潰せますか?」
「いいや」
男は、
薄く笑う。
「潰せるなら、
もう潰れている」
レオンは、
夜の街を歩く。
英雄と呼ばれ、
信用されず。
評価は高く、
扱われない。
だが。
《収納》が、
最後に一行だけ表示する。
《取得:
不安定環境下成長
外部補正拒否》
「……上等だ」
追放された最弱は、
この日。
世界から
「都合のいい存在」であることを
正式に拒否された。
それは、
罰ではない。
世界が、
本気で“彼を扱いきれなくなった”
証明だった。




