正解ばかり選ぶと、戻れなくなる
ギルドは、
いつも通りだった。
掲示板は整然とし、
受付は忙しそうで、
冒険者たちは笑っている。
「……調子いいな」
同行者が言う。
「最近、
依頼が安定してる」
安定。
その言葉に、
レオンは小さく頷いた。
実際、
悪くない。
依頼の難易度は適切。
報酬は標準。
評価は、
少しずつだが確実に上がっている。
「……このまま行けば」
「中位ランク、
見えてきたな」
仲間の声には、
期待が混じっていた。
レオンは、
何も言わない。
(……このまま、か)
依頼。
小規模魔獣討伐。
指示を出す。
「前衛は二人」
「無理はしない」
判断は、
正しい。
魔獣は、
危なげなく倒れる。
《討伐成功》
《評価:微増》
「……よし」
誰も、
怪我をしていない。
村人が、
礼を言う。
「助かりました!」
笑顔。
帰路。
「……レオン」
同行者が、
少し照れたように言う。
「お前がいると、
安心する」
レオンは、
曖昧に笑った。
(……安心)
その言葉が、
胸に残る。
ギルド。
受付嬢が、
端末を見る。
「……最近、
失敗がないですね」
「評価も、
とても綺麗です」
綺麗。
「……ありがとうございます」
形式的な返答。
その夜。
レオンは、
依頼履歴を見返していた。
成功。
成功。
成功。
失敗は、
ない。
(……選んでる)
(危険な依頼は、
無意識に外している)
それは、
間違いじゃない。
だが――
(……誰かが、
代わりに行っている)
ふと、
掲示板の端を見る。
評価が低い依頼。
危険度が高い割に、
報酬が低い。
(……あれは)
「……新人が、
行くな」
誰かの声。
「失敗したら、
評価が落ちる」
別の声。
(……そうだ)
(それが、
“正解”だ)
レオンは、
目を逸らす。
(……でも)
(その正解を、
積み重ねた先に)
(何が、
残る?)
翌日。
新しい依頼が、
貼られる。
危険度:中
評価補正:高
「……これだな」
仲間が、
当然のように言う。
「お前が判断役だろ?」
当然。
その言葉に、
胸が少しだけ重くなる。
「……行こう」
レオンは、
そう答えた。
評価は、
また上がるだろう。
失敗は、
しないだろう。
でも――
(……戻る理由が)
(一つずつ、
減っていく)
そのことに、
レオンは気づいてしまっている。
だが――
まだ、
立ち止まらない。
この日。
追放されるより、
ずっと前。
レオンは、
“正しい選択”が
人を縛る鎖になることを
まだ言葉にできずにいた。




