辺境の森で、最弱は“ありえない数値”を叩き出す
王都を出て、半日。
レオンは、人気のない街道を歩いていた。
「……本当に、何も持ってないな」
腰の袋には、最低限の食料と水。
武器は、使い古された鉄剣一本。
元パーティの誰かが持っていたら、
「雑用用」と笑われるような装備だ。
(まあ……今さらだ)
そう思った瞬間。
《収納》が、再び脈打った。
昨夜からずっと、落ち着かない。
スキルの奥が、勝手に動いている感覚。
(評価外資源……って何なんだよ)
考えても分からない。
だが一つだけ、はっきりしている。
昨日までの《収納》じゃない。
森に入った直後だった。
――ガサッ。
草むらが揺れ、
体高二メートル近い魔獣が姿を現す。
「グレイウルフ……!」
単独冒険者なら、逃げるのが正解。
元パーティでも、前衛が複数必要な相手だ。
レオンは、反射的に剣を構えた。
(……勝てるわけがない)
そう思った、はずだった。
だが――
恐怖が、ない。
(……?)
胸の奥が、妙に静かだった。
《収納》が、応える。
《取得可能:
運動効率
反射速度
筋出力》
「……は?」
意味を理解する前に、
体が――勝手に動いた。
踏み込み。
速い。
自分の動きじゃない。
剣を振る。
軽い。
鉄剣の重さを感じない。
グレイウルフの爪が迫る。
だが、遅い。
(――見える)
信じられないほど、はっきりと。
レオンの剣が、魔獣の首を捉えた。
一閃。
次の瞬間、
巨体が地面に崩れ落ちる。
「……え?」
あまりにあっけない。
息も切れていない。
腕も震えていない。
――一撃だった。
《収納》が、静かに表示を更新する。
《収納:
魔獣素材
筋力補正:微増
反射補正:微増》
「……収納?」
荷物じゃない。
力を、そのまま入れている。
(これが……俺のスキル?)
ふと、足元を見る。
倒したはずのグレイウルフの死体が、
少しずつ薄れている。
「……消えてる?」
次の瞬間、完全に消失。
《収納》に、追加表示。
《回収完了》
「……は?」
解体もしていない。
触れてもいない。
(勝手に、回収した……?)
レオンは、背筋が寒くなるのを感じた。
強い。
確かに、圧倒的だ。
だが――
(……俺、何を取り込んだ?)
魔獣の力だけじゃない。
戦うための“正解”そのものを、
奪ったような感覚。
それは、便利で――
どこか、危険だった。
そのとき。
森の奥から、複数の足音。
冒険者の一団だ。
レオンより装備も人数も上。
「おい、今の音……」
地面の血痕を見て、目を見開く。
「グレイウルフ……?
まさか、単独討伐?」
レオンを見る視線が、変わる。
疑い。
驚き。
そして――評価。
その瞬間。
《収納》が、再び反応した。
《取得中――
外部評価
成功補正》
「……っ」
胸が、ざわつく。
(今の……
あいつらの視線に、反応した?)
冒険者の一人が、声をかけてくる。
「お前……名前は?」
レオンは、少し考えてから答えた。
「……レオンです」
その名を聞いても、誰も気づかない。
昨日までの彼は、無名だった。
だが――
冒険者たちは、
確かに彼を見ていた。
“強い存在”として。
(……そうか)
レオンは、理解し始めていた。
この力は、
戦うための力じゃない。
“世界にどう見られるか”を、
そのまま力に変える能力だ。
夜。
焚き火の前で、レオンは剣を見つめる。
(最弱?
価値がない?)
昨日までの評価が、
馬鹿みたいに遠い。
だが同時に、
胸の奥に、消えない違和感があった。
(もし、誰にも見られなかったら?)
(誰にも評価されなかったら……
俺は、どうなる?)
《収納》は、答えない。
ただ、
底なしに開いたままだった。
追放された最弱は、
一夜にして“異常値”になった。
だが――
その力は、まだ序章にすぎない。




