評価を捨てた翌日、世界は露骨に冷たくなった
朝。
レオンは、
いつも通り目を覚ました。
体調は、悪くない。
剣も、重くない。
(……変わらないな)
一瞬、
そう思ってしまった。
ギルド。
扉を開けた瞬間、
空気が違う。
視線が、
来ない。
昨日まで、
必ず向けられていた
好奇と敬意が――
ない。
「……あ」
受付嬢が、
レオンに気づく。
だが、
反応が一拍遅れる。
「えっと……
おはようございます」
声音は丁寧。
だが――距離がある。
「依頼を」
レオンが言うと、
彼女は端末を操作する。
数秒。
「あ……」
眉が、わずかに動く。
「本日は……
おすすめできる依頼が
ありません」
(……?)
掲示板を見る。
昨日まであった
高難度依頼が、
綺麗に消えている。
残っているのは、
雑務
護衛補助
単発・低評価案件
「……俺、
依頼制限かかってます?」
レオンは、
静かに尋ねた。
受付嬢は、
一瞬だけ言葉に詰まり――
そして答えた。
「……正式には、
かかっていません」
「ただ……
優先表示が、解除されています」
優先表示。
評価上位者にだけ適用される、
“見えない特権”。
(なるほど)
(昨日の選択で、
真っ先に外されたわけか)
街を歩く。
露骨な敵意はない。
だが――
誰も、
助けを求めてこない。
昨日まで、
「レオンさん!」
と声をかけてきた人々が、
別の冒険者に頼んでいる。
「……どうして?」
小さな疑問。
だが、
答えは分かっている。
《収納》が、
鈍く反応する。
《外部評価:低下》
《取得効率:減衰》
(……来たな)
昼。
街外れで、
小さな魔獣騒ぎが起きる。
普通なら、
自分が呼ばれたはずの案件。
だが――
来たのは別の冒険者。
経験も、実力も、
自分より劣る。
結果。
怪我人が出る。
レオンは、
遠くからそれを見ていた。
助けに行けば、
解決できる。
だが。
呼ばれていない。
(……これが)
(評価を捨てた、
現実か)
夜。
宿で、
レオンは剣を磨く。
《収納》が、
静かに表示する。
《取得不能:
外部承認》
「……他人の評価がないと、
伸びない力」
小さく、
笑う。
そのとき。
扉が、
ノックされる。
「……レオンさん」
昼の騒ぎで怪我をした
冒険者の一人だった。
「……助けてほしい」
「俺たちじゃ、
手に負えない」
レオンは、
少しだけ考える。
評価は、上がらない。
むしろ、
下がるかもしれない。
それでも。
「……案内してくれ」
戦闘。
以前より、
きつい。
判断も、
一瞬遅れる。
だが――
勝つ。
派手ではない。
ギリギリだ。
《評価更新》
非公式行動
報告対象外
評価変動:なし
宿に戻る。
疲労が、
はっきり残っている。
だが――
胸の奥は、妙に静かだった。
《収納》が、
新しい表示を出す。
《取得:
自己選択による行動
評価非依存成長(進行中)》
「……遅いな」
レオンは、
呟く。
「でも……
ゼロじゃない」
追放された最弱は、
この日。
評価を捨てた“代償”を、
はっきりと受け取った。
楽は、消えた
世界は、冷たくなった
誰も、期待しなくなった
それでも。
「それでも助ける」を、
自分で選んだ。
この選択は、
まだ報われない。
だが――
確実に、
物語を“別の方向”へ進め始めていた。




