完全自由編!創世神レオン、読者の世界へ
魔獣を倒したあの日の夜、村は不自然なほど静かだった。
家々の灯りはまばらで、風が吹くたび軋む木の音が胸に残る。
まるで村全体が、何かの影を察して息を潜めているようだった。
レオンは村の外れにある小さな物置小屋に腰を下ろし、ゆっくりと剣を磨いていた。
刃に刻まれた雷神の紋様が、夜気を吸うたび淡く光る。
「……まだ使いこなせていない。この力の奥には、別の何かがある」
ぼそりと呟いた言葉は、思考の端から自然に零れ落ちたものだった。
ここ最近、心の奥で強くざわめく感覚がある。
それは警告のようであり、呼び声のようでもある。
ふと空を見上げると、星の並びがわずかに歪んだ。
ほんの一瞬、夜空が波打つような揺らぎが走り、すぐに元の姿へ戻る。
「また……揺れた」
森で見た光球。
魔獣の変異。
井戸に映った“未来の影”。
どれも断片的で繋がりはないが、同じ根にある異変だと直感していた。
考え続けていると、扉が控えめに叩かれた。
「……入っていい?」
昼間、村で会った若い女性の声だった。
レオンが扉を開くと、湯気の立つ木の器を手にした彼女が立っていた。
どこかためらいながらも、優しい困り笑いを浮かべている。
「これ、夕食。村の人みんな、あなたにお礼言いたくて」
レオンは礼を述べて器を受け取り、温かな香りに心をほぐした。
誰かが自分を気にかけてくれる――そんな感覚は久しぶりだった。
女性はそっと隣に腰を下ろし、遠い村の灯りを見つめた。
「魔獣……怖かった。
でも、あなたが来てくれて、助かったんだと思ってる」
レオンは器を置き、言葉を選ぶ。
「俺が助けたというより……“何かが始まっているだけ”だ。
放っておけば、被害はもっと広がる」
女性は不安げに眉を寄せた。
「魔獣の異常、……だけじゃないってこと?」
レオンは一拍置いて頷く。
「森の奥で、未知の光を見た。
魔獣の変異も、それとは別の原因だ。
あれは……この世界のものじゃない」
「この世界の……外?」
「断定はできないけど、そうとしか思えなかった」
女性は息を呑んだが、その瞳は逃げなかった。
この村の誰よりも真剣にレオンの言葉を受け止めていた。
「……行くんですね」
「行く。俺の力が反応してる。
その“外”に触れようとすると、胸の奥が熱くなる。
追えば、必ず何か分かるはずだ」
女性は膝の上で手をぎゅっと握りしめた。
「あなたみたいな人がいて……本当に良かった。
誰も信じてくれなかったから、こんな異変……」
レオンは微かに笑い、立ち上がった。
「大丈夫だ。行くべき場所は見えている」
小屋を出ると、夜空に一本の光が流れた。
それは流星ではなく、道を示すように地上へ伸びる光の軌跡だった。
「呼ばれている……のか」
雷神の鎧が脈動し、レオンの胸を震わせた。
“この世界の外側”と何らかの繋がりがあるように思えた。
翌朝、村人たちが見送る中、レオンは村を後にした。
背中に届く子どもたちの声は、風より温かく響く。
街道に入り、森の縁へ差しかかった瞬間――
空気が変わった。昨日よりも濃く、深く、明確に“外”の気配が増している。
「近い」
心臓の鼓動が強まり、雷神の紋様が低く震える。
何かが待っている。
ここから先が、ただの旅ではないと告げていた。
レオンは迷いなく歩幅を広げた。
――この先にあるのは、異変の源。
――そしてたぶん、“外の世界”の入口。
風が吹き、草原がその歩みを押した。
レオンの旅は、いよいよ常識の境界を越えていく。




