外伝編突入!物語の外側へ ~創世神レオン、新たなる次元~
村を離れたころ、空は薄い雲に覆われていた。
朝の光は弱く、森の影が地面に長く伸びる。
足音だけが静かに響き、その合間に胸の奥のざわめきが痛むように揺れていた。
――あれは、本当に“未来”なのか。
炎に包まれる村。
空へと伸びる裂け目。
そして、意思を失った魔獣の異様な動き。
思い出すたび、胸が重くなる。
だが、その奥に別の感情があった。
不安でも怒りでもない、もっと曖昧で、言葉にしがたいもの――。
「見過ごすわけにはいかない。」
声にして初めて、自分の中に芽生えていたものが“責任”に近いと気付いた。
追放されたときには抱くことさえなかった感情だった。
雷神の鎧が、ときおりかすかに震える。
その脈動は、急かすようでも、迷うなと背を押すようでもあった。
森を抜けると、小高い丘に出た。
そこで数人の冒険者たちが荷を広げて休んでいる。
レオンが通りかかると、彼らはざわつき、目を向けてきた。
「なぁ、見たか? 森の魔獣……なんか変なんだよ。」
一人が言う。
「焦点が合ってねぇ。攻撃しても逃げねぇ。」
「魂を抜かれたみたいで……あれは生き物じゃなかった。」
魂を抜かれた。
その言葉が刺のように胸に触れた。
「……他の場所でもか?」
レオンは立ち止まり、低い声で聞いた。
冒険者たちは神妙にうなずく。
「北の集落でも、動物がいきなり飛び出してきたらしい。
目が死んでた。
村に入る前に、ぱたりと倒れたって。」
まるで糸が切れたように――
先ほど井戸で見た魔獣と同じだった。
レオンは深く息を吐いた。
「広がっているんだな……歪みが。」
思わず出たその言葉に、冒険者たちは顔を見合わせた。
「何かわかるのか?」
おそるおそる問いかけられる。
レオンはかすかに首を振った。
「まだだ。ただ……確かめないといけない。」
その声音は落ち着いていたが、自分の胸の内では別の感情が渦巻いていた。
恐怖ではない。
だが、ただ前に進めばいいというほど単純でもない。
“もし映像が現実化したら”という重い予感が、影のようについてくる。
丘を越え、街道へ出るころだった。
ふいに風が止まり、周囲が静まり返った。
「……まただ。」
昨日と同じ気配。
空気がひやりと冷え、耳鳴りに似た音が遠くで鳴る。
胸の奥で、鎧の鼓動が高鳴る。
雷神の力が“警告”を発しているのだと、もう理解できた。
丘の向こうで、小さな光が揺れた。
木漏れ日のように柔らかい光――だが、その奥に微かな脈動がある。
まるで生き物のようだ。
「また……お前か。」
光はゆっくりと漂い、レオンの胸元の位置で止まった。
輪郭はぼやけ、触れれば消えてしまいそうな儚さだ。
「見せたいものがあるのか。」
光が微かに震え、景色が水面のように揺れた。
次の瞬間、視界が白く染まる。
炎に呑まれる家々。
倒れ伏す人々。
空を裂く巨大な影。
そしてその中心に、輪郭の曖昧な“人影”が立っていた。
顔はない。
代わりに、無数の光の線が形を作り、レオンを射抜くように向けてくる。
「……誰だ。」
問いかけると、景色が一瞬で消えた。
光の球体はすでに薄れ、風が戻り、鳥の声さえ聞こえ始めていた。
レオンは息を整え、額に手を当てた。
胸の中に残ったのは、恐怖ではなく――重い疲労だった。
「……俺に、何をさせたい。」
答えは来ない。
その代わりに、鎧が脈動を強めた。
敵に反応する時の鼓動。
つまり、“あの影”が何であれ、関わってくる存在なのだ。
「行くしかないな。」
レオンは剣を背負い直した。
曇り空の上に、淡い揺らぎがまた走っている。
境界がゆっくり軋み始めている。
誰かが意図的に引っかき回しているのかもしれない。
その中心に、あの影がいるのかもしれない。
「この歪みを追う。
たとえどこへ繋がっていても――俺が確かめる。」
強い言葉を吐いたが、その裏ではまだわずかな戸惑いが渦巻いていた。
世界が変わり始め、力が膨れ上がるほどに、昔の“普通の自分”との距離が広がっていくように感じる。
それでも足は止まらない。
胸の奥で鼓動が鳴り続けている限り。
レオンは歩き出した。
誰もまだ知らない、この一歩が大陸全土を巻き込む“最初の探索”となることを。
曇り空の向こうで、風だけが静かに彼の背を押していた。




