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13/20

辺境の人々は、英雄を静かに遠ざけた

辺境の村は、朝が早い。


鶏の鳴き声。

井戸を引く音。

畑へ向かう足音。


だがその日、村の空気はどこか硬かった。


「……あの人、もう起きてる?」


小声で囁く声が、家の影から漏れる。


「さあ……でも、夜も外にいたみたいだよ」


視線の先。

村外れの小屋の前で、レオンは剣を手入れしていた。



サンダーベア討伐から、三日。


村は確かに救われた。

被害は出ていない。

魔獣も、寄りつかなくなった。


――それなのに。


「近づきにくいよな……」


青年が、ぽつりと言う。


「悪い人じゃないんだ。

 むしろ、命の恩人だ」


「でもさ……」


言葉が、続かない。


レオンは気づいていなかった。

いや、正確には――気づかないふりをしていた。



畑仕事を手伝おうと声をかけても、


「だ、大丈夫です! 自分たちで……!」


子どもに剣を教えようとしても、


「い、いえ! 怪我したら大変なので……!」


断られる。


笑顔だ。

礼儀正しい。

だが、一歩引いている。


(……なんだ?)


胸の奥に、小さな違和感が積もる。



昼過ぎ。


村長が、意を決したようにレオンの元を訪れた。


「レオン殿……少し、よろしいですかな」


「はい」


二人は、小屋の外で向かい合う。


村長は、言葉を選びながら続けた。


「あなたが来てから、

 この村は助かりました」


それは事実だ。


「ですが……」


一拍。


「皆、少し……遠慮しておるのです」


レオンは、眉をひそめる。


「遠慮?」


「はい。

 あなたは……あまりに、強すぎる」



村長は、正直に言った。


「助けていただいているのに、

 我々は、あなたの前で失敗できない」


「怠けることも、

 間違うことも、

 弱音を吐くことも……」


「できなくなってしまった」


その言葉は、責めではなかった。

むしろ、申し訳なさそうだった。



レオンは、何も言えなかった。


(……俺は、守ってるつもりだった)


(なのに……)


「あなたがいると、

 村は“正しくあろう”としてしまう」


「それが……少し、苦しいのです」



沈黙。


風が、畑の麦を揺らす。


レオンは、ゆっくりと息を吐いた。


「……すみません」


それしか、言えなかった。


村長は慌てて首を振る。


「いえ!

 責めているわけでは……」


だが、もう遅かった。



その夜。


レオンは、小屋の外で一人座っていた。


焚き火はない。

剣も、置いたまま。


(……俺がいると)


(みんな、楽になれないのか)


助けている。

守っている。

間違ってはいない。


――それでも。


(……居場所を、奪ってる)



《収納》は、静かだった。


表示も、取得も、ない。


ただ、重たい沈黙だけがあった。


レオンは、夜空を見上げる。


星は変わらず、綺麗だ。


だが、その光が――

ほんの少し、遠く感じられた。


この日を境に、レオンは理解し始める。


「強さは、必ずしも救いではない」


そしてそれは、

後に彼が“距離を取る生き方”を選ぶ、

最初の理由になった。

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