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中二王女の世界征服大作戦⁉  作者: 津笠厚志
episode001 堕天使降臨⁉ 世界征服大作戦始動
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#4

 白神島の外れの山の中……鬱蒼と緑の生い茂る森にひっそりと建つ一軒の古びた洋館。自然のままに伸び放題となった蔦や草木に侵された建物の玄関には、こんな表札が。

 人魔お悩み相談所《エスペランサ》……。

 ボク達のアルバイト先は、一言で言ってしまえば便利屋。

 だがしかし、その名前から分かる通り、ただの便利屋ではない。

『多くの妖怪や悪魔、天使や神族が仲良く手を取り合い暮らす楽園……白神島』

 ……と、確か役所のホームページの見出しには、そんな感じの紹介文が掲載されていたっけ。

 あながち嘘ではないだろう。

 島内は常に平和だし、これと言って争いが生まれることもない。まあ、個人的な小競り合い程度なら可愛いものだよね。大目に見よう。

 しかし、その陰では異なる種族通しが「手を取り合う」為に奔走する存在がいた。

 それこそまさしくボク達、人魔お悩み相談所《エスペランサ》だ。

 時に種族間の争いの仲裁に、時に逃げ出した凶悪なペットの捜索。時に繁殖した魔界植物の駆除に、時には魔界や神界の王侯貴族の護衛なんて仕事まで。

 依頼さえあればなんでも引き受ける……それがボク達の仕事である。

 もちろん、そんな会社でアルバイトをするボク達が、ただの非力な人間な訳がない。

 我が焔城寺家は炎術士の家系だし、銀河の金剛院家は金術士の家系。ライムの生家、フルルート家は雷を操る悪魔、フールフール、マギ先輩は魔女だ。……男だけれど。

 この会社で純粋な人間なのは、彼ただ一人……、

「ええっ、それはもう‼ ……はい……はい、重々承知しております。申し訳ございません。私の方から厳しく言っておきますので、何卒平に‼ 平にご容赦頂ければと。……はい……はい、それでは失礼致します」

 そこで通話は終わったのだろう。最奥の所長席に着く男は、堪った鬱憤をぶつけるように受話器を乱暴に叩き付ける。

「えぇい、まったく忌々しい‼ 何が「君達の事務所は無能な連中の吹き溜まりなのかね?」だ‼ 貴様らのような椅子にふんぞり返り偉ぶっておるだけの連中に現場の何が分かる‼」

 電話中のペコペコした殊勝な態度からは一転。デスクに力任せな拳を振り下ろした彼の名は二鶴木刀次郎正直ふたつるぎとうじろうただなおさん。この事務所の所長であり、唯一純粋な人間でもある人だ。

 そんな彼は、応接室の入り口に立つボク達を指差して、なおも声を荒げる。

「だいたい、貴様らが仕事の度に無茶をするから上から毎回毎回お小言を頂戴するのだぞ‼ 少しは文句を言われる私の身にもなってみろ‼」

「ふんっ、偉そうに……このあたしは歴史と栄光あるフルルート王家の末裔なのよ? 口の利き方には気を付けなさいよね、豚鶴木?」

「ちょ、ちょっとライム⁉ だだ、駄目だよ、仮にも上司にそんな口聞いちゃ……」

「いいのよ‼ だって、あたしは王族で世界一のアイドルなんだもの‼ つまりは一番なんだもの‼ お~っほっほっほ~っ‼」

 口元を隠して踏ん反り返り、盛大な高笑いをするライム。

 王族でありアイドルでもある。そんな立場が彼女をここまで調子付かせてるんだろうね、きっと。相変わらずの性格の悪さだ。

「な、何~~~ィイ……」

 だからこそ、一層鬱憤を溜め込んだらしい二鶴木さんだけれど、強気には出られない。

「い、いつも言っておるが私のことは所長と呼べ、所長と‼ ……ま、まあ、そんなことはどうでもよい。先日の妖花除草の件……あれはどういうことだ‼」

 妖花除草? ……ああっ、依頼主の所有する山一面に咲いた魔界の花、妖花を除草してくれってあれかな?

 確かあの件は完了したはずだけれど……うん、結果だけ見れば完了したはず。

「依頼主は妖花を除草してくれと言ってきたのだぞ? 誰も山を更地に戻してくれなぞと依頼してきたわけではないわ‼」

 や、やっぱりそうなるかぁ……。

 けれど、それならボク達にだって言い分はある。

 仲間を助ける為だもん。仕方なかったんだよ、あれは。

「その件に関する文句ならマギさんに言えよな、おっさん」

「だ、だから、所長と呼べと言うのが……え、えぇい、まったく‼ どういうことだ、金剛院?」

「どうもこうもねぇよ。妖花の大群の中に一人先走って突っ込んでいったマギさんが地面の中に引き摺り込まれて、それを助けようとした結果があれだ」

「あ、あはは~っ……す、すみません、二鶴木さん? 気色悪い触手の大群見たら、つい……」

 何が「つい」なんですか、マギ先輩? 「仕方ない」みたいに言わないでください。

「で、では、魔界との交信用電波塔の修復の件に関しては?」

「あれは思うように修復できない電波塔に腹立てたライムが雷落としたからだ」

「ふふんっ、美しいあたしの意に沿わないのよ? あんな安物、消滅させて何が悪いのよ?」

 ……いや、流石に跡形もなく消滅させたらまずいでしょ?

「それだけではないわ‼ 研究棟の魔界生物集団脱走の件に関してもだ‼」

「それは全部銀河の馬鹿が射ち殺しました」

「あ~っ……あれは楽しかったなぁ……。久々にテンション爆上がりだったぜ?」

 少しは悪びれようよ。……まあ、この戦闘狂なら「逃がす方が悪い」とか言いそうだけど。

「ま、まだまだあるぞ? 来月のイベントに使う予定の神鳥の捕獲に関しては?」

「うっ⁉ そ、それは~……」

「佳賀里の馬鹿が焼き鳥にしました」

「き、君が直前に変な問題出してくるからでしょう‼ 頭がパンクするかと思いましたよ、本当あの時は‼」

 確か「一羽の神鳥を捕まえるのに一人でやるのと四人で掛かるの。さて、どちらの方が楽でしょうか?」だったかな? ある意味、一人でやった方が楽だったね、あの時は。

「っっ~~~⁉ き、貴様らと言う奴は‼ どいつもこいつもなんでこうも依頼内容を忠実にこなせんのだ‼ 貴様ら程の実力があれば、どれも容易い内容であろうが‼ 五分だ‼ 私が出れば五分で終わるぞ‼」

 基本、現場に出ない二鶴木さんが言っても説得力ないと思う。

 彼はある意味典型的な中間管理職と言った感じの人だ。上……つまりは《亜人種管理協会》(名前の通り、人間界に滞在する神族や妖怪、悪魔なんかを管理・監督する組織のこと)からは嫌味を言われ、使えない部下(ボク以外の三人)に頭を悩ませる。

 上には従順にペコペコしてるくせに、ボク達に対しては声を荒げて怒鳴り付ける。

 うん、典型的な中間管理職だよね。

 そのストレスが暴飲暴食に結び付いたのかは知らないけれど、お腹回りにたっぷりと油の乗った肥満体型をしていた。ワックスで固められた茶髪と、ちょっとお洒落なカイゼル髭が特徴的で、どことなく漫画やドラマに出てくる「無能なくせに権力を鼻に掛けて威張り散らす貴族」を思わせる人だ。

 でもまあ、悪い人でないのは確かだね。上からのお叱りをひとえに引き受けてくれてるんだもの。問題ばかり起こしてる部下を首にすれば済む話だけど、見捨てようとはせずに。

 その上、的確な説教はあっても言い過ぎることはないし、銀河やライムの暴言は見逃す。

 普段の態度からは想像も付かないけれど、相当懐の深い人と見たね、二鶴木さんは。……まあ、本人に対しては口が裂けても言わないけれど。

「ふんっ、済んだ話を蒸し返すなんて本当に器の小さい男よね、豚鶴木は? 少しはあの伝説の《白騎士十二神将》が一人、《閃光将軍》様を見習ったら?」

「っっ⁉ せ、《閃光将軍》だと⁉︎ な、何故私が……」

「まあ、あんたみたいな無能な男には無理な話よね? 何しろあのお方は『人類最強にして最速』と謳われる偉大なお方だもの‼ あのお方と同列に並べたら、惨めさが際立って仕方ないわよね、お~っほっほっほ~っ‼」

「~~~っっ⁉ い、言わせておけばァア……」

 見下すような視線を向けるライムの言葉に、あからさまに二鶴木さんの顔色が変わった。

 まあ、無理もない。《白騎士十二神将》が一人、《閃光将軍》に心酔してるライムとは反対に、二鶴木さんは嫌ってるからね、その二つ名を。

 《白騎士十二神将》……それは遡ること七百年程前、神界で起こったとされる『四神大戦』の折に、一騎当千の活躍を見せつけ、白帝を勝利に導いたとされる伝説の十二人の将軍のことだ。

 「大陸を動かした」や「天地をひっくり返した」などと嘘のような伝説も数多く残るけれど、その中で一つだけ確実な伝説があった。

 曰く、「青帝軍(四神の一柱、青龍の率いる軍)百万の軍勢を、白帝指揮の下、たった十三人で壊滅させた」と……。

 しかし、いつの時代も過ぎた力は新たな戦乱を呼び兼ねない。青帝は残る二つの皇帝、朱帝と玄帝と手を取り合い、白帝に宣戦布告してきたらしい。「《白騎士十二神将》を野放しにすれば、三勢力総勢数千万の軍を率い蹂躙するぞ」と言った風にね。

 流石に百万の軍勢は壊滅させられても数千万となると話は別だった。

 ……いや、まあどっちも普通は不可能だけれど。

 そこで白帝は民草の安寧の為、《白騎士十二神将》の能力を大幅に封印し、泣く泣く人間界に追放することを決めたそうだ。十二人の将軍それぞれに莫大な富と領地を与えて。

 その時に白帝から与えられた領地がここ、白神島らしい。

 まあ、四神対戦が終結したのは五百年も前の話だし、嘘か本当か知れたものじゃない。それに誰一人として《白騎士十二神将》の姿をその目で確認したことのある者はいないとされている。その存在自体、眉唾物だと一笑に付す者までいるくらいに。

 かく言うボクは半信半疑ってところかな? 眉唾物とまでは思わないけれど、伝説のすべてを信じる程に純粋じゃない。

「あんたもあのお方を見習って、伝説の一つでも作ってみなさいよ? そうすれば、少しは尊敬してあげてもいいわよ?」

「だ、だから、上司にそんな口聞くものじゃ……すす、すみませんすみません、二鶴木さん。ライムが失礼なことばかり」

「謝る必要なんてないわ、マギ? 大体、年上なら無条件で偉いとか思ってるんなら大間違えよ? 尊敬できる大人とただの老害はしっかり見分けなきゃね?」

「なっ⁉ ろ、老害だと⁉」

 い、いや、ただの老害って……酷いこと言うね、ライムも。これは流石に怒ってもいいと思うよ、二鶴木さん。

「え、えぇい、もうよい‼ 不愉快だ‼ 今日のところはさっさと帰れ‼」

 自席にどっかりと腰を下ろした二鶴木さんは、鼻息荒く椅子ごと背を向ける。

「はあ? 俺らのこと呼び出したのあんたじゃねぇか、おっさん? 要件は何だったんだよ?」

「あ、ああっ、そう言えば……」

 ……わ、忘れてたんだね、二鶴木さん。

「お前達に仕事の依頼が……」

 と、本題を切り出し掛けた時だった。

「ク~~~ッフッフッフッフッフ~~~ッ‼」

 ライムにも負けない盛大にして、どこか幼さを残す高笑いが、事務所の玄関先から聞こえてきたのは……。

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