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第23話

《誰がこの展開を予想できたのかー? ルシファーが一方的に押されています!》



 実況と観客の方はヒートアップしているが、モービルギアの方はようやく一休みできたところだ。

 冷却させたくないルシファー側がグレネードランチャーを多数浴びせてくるも、クロワがアンチウェポンの異名通りの動きを見せ、全て撃ち落した。


『ハッハー! 見たか! これがエクリプス自慢のアンチウェポンだ! 出てくる奴は片っ端から叩いて潰すぜ!』

『ソルティさん、叩くアンチに好かれてますもんね!』

「うるさいぞ、ソルティ、チーザ。指示が出せん」


 互いにSK(セーフキーパー)を狙いつつ竜巻状の円周運動へと戻る。ビームの刺し合いだけで言えば3機も多いこちらが有利。今の流れは敵にとって芳しくない筈だ。何かしら仕掛けてくるだろう。

 黒雷が中央へと躍り出て、キャメルが警告を飛ばす。


『来てる! 中央!』


 フィールドの中央は台風の目とも言えるし、全方位から狙われる危険領域。だが、中途半端な牽制は楽に捌いてしまう相手だ。崩しを入れるにしても、全力で挑まなければ綻びすら生まれまい。


「全機、黒雷へ一斉射撃(フルアタック)


 明らかに誘われているので距離を保ったまま、敵の足を奪うべく遠距離攻撃を指示した。

 ビーム、グレネード、マイクロミサイルの数々が黒雷を目掛けて乱舞する。


『クッ!』

『あんなのアリですか?』


 無数のマイクロミサイル1つ1つすら、最小の動きで躱す光景は異様だった。グレネードの爆風すら利用して、黒雷は慣性と最小のスラスター起動で回避していく。



《ご来場の皆さま! これです! これこそが黒雷の真骨頂! 未来予知の動きです!》



 選手や観客の度肝を抜く状況を、実況が大声で煽っている。

 実況も語るように一見未来予知に見えるが、実際には高い技術と計算に基づく動き。

 ごく僅かな強化兵士が使う、思考加速の臨界領域(コンテンプレーション)の本領だ。あまりに脳への負担が大きいので常時発動できるのは黒雷(アイビス)ただ一人。

 そこまで考えてやっと敵の狙いに気付く。


「誘われた。死角に注意しろ!」

『ナックさん、遅い! もう来てます!』


 数々の爆風に紛れて黒雷がハーベストへと肉薄し、格闘戦へと持ち込まれてしまった。

 意識の間隙を縫った一瞬の出来事で、当事者である黒雷とハーベストしか反応できていない。


『ハーちゃん!』

『私がカバー入ります!』


 敵アタッカー陣から「一騎打ちの邪魔をするな」と言わんばかりの猛攻が行われ、クロワたちの足は阻まれた。位置取りが悪くこちらも間に合わない。

 思考加速の精密なシミュレーションで、黒雷が全てを読み切ったと思える格闘術を魅せ、ハーベストが姿勢制御を失う。


「キャリブレ阻止!」

『ハーベスト! 痛すぎたら気絶しろよ!』


 ルシファーの赤に堕とそうとする射撃と、赤だけは避けたいというエクリプスの射撃が交差する。

 ビームが空気を焼く音が響き、それを塗り替える撃墜音と土煙が立ち上り、ハーベストが堕ちた。

 すかさず実況の声が舞う。



《ゴーーール! キーパーが青に堕ちましたーー!》



 完全にしてやられた。

 いや、青で済んだのは幸運だと言える。しかし今ので、点数はひっくり返されてしまい、動揺が走る。

 不味いという焦りを突き破るキャメルの弾む声。


『獲った! キャリブレ』


 射線の位置が悪いと判断したのか、独断で敵キーパーを狙っていたキャメルの攻めが実を結び、ブロックダウンに入った敵機へとショルダータックルから裏拳へ繋げていた。

 値千金のキャメルの働きを無駄にはしない。逸る鼓動を抑えながら、赤の位置に弾ける左臀部に狙いを定める。


「貰った!」


 タイミング、角度共に完璧。赤は間違いないと思えた矢先、墜落の間際に黒雷がビームで仲間を撃って青に補正(フレンドリーファイア)し直した。


「な! いつの間にあんな高度へ下げた?」

『ナック、熱くなりすぎるな!』


 決勝の雰囲気に飲まれていたのかも知れない。ソルティに指摘され、熱くなっていたことを自覚する。思えばこれほど滾っているのは久しぶりの感覚だ。

 頭が冷えるにつれて背筋も凍てつく。


「……俺の脳内が狙いか?」

『だろうな! 暫く指揮を俺が代わる!』


 上手くいきそうで上手くいかない局面、またその逆。

 それらを乗り越えるごとに次第に熱くさせられていたが、全てが黒雷の掌の上だと気付かされた。

 緻密に計算された展開はチームの頭脳潰し。思考速度が百倍となる黒雷に読み合いで勝つことはできず、これまでも多くの指揮官が潰されてきた。読みの深さに改めて戦慄を覚える。

 脳裏へ割り込むように飛来したビームをギリギリで回避したが、振動による震えなのか、体の内側からくる震えなのか分からない。


『うぉっしゃ! 俺の指揮で敵を黒焦げマシマシの消し炭にしてやるぜ! キャメル、ついてこい!』


 ソルティがキャメルを引き連れて上昇していく。

 頼もしい仲間を信じ、力を込めてグリップを傾けた。体にかかるG負担と吐き気が警告を鳴らすも、無視して全力で飛ぶ。


「ったく、俺に横からを抑えろってんだろ」

『なんだよ、ナック? やーっと調子出てきたか?』


 ソルティとキャメルが高高度から縦のビームを敵へと浴びせ、残りのメンバーで横のビームを重ねた。

 黒雷が格子状のビームの檻を、どうやり過ごすのか興味がある。動向を見逃すまいと注視していたら、黒雷の左肩パーツに違和感を覚えた。


「不味い! リフレクターだ!」

『チッ! 晴れの舞台は特別コーデなんかよ!』


 決勝では装備構成が変わり、黒雷の左肩からリフレクターシールドが起動。散らして撃ったので限られたビームしか反射させられない。狙いは自ずと絞られる。

 黒雷の左上に位置取るキャメルだ。


『あたい、限界! 逃げられない!』


 黒雷はキャメルの射撃を反射させ、続けざまにフルブーストで迫っていく。

 獅子奮迅の活躍を見せていたキャメルは、オーバーヒート手前だった。


『ナックさん、仇を!』


 燃え尽きるまで必死の最少失点の貢献(ブロックダウン)を見せるキャメル。黒雷の猛攻を少しでも長く引き付けようと最後の抵抗を見せる。


 返事は不要。結果で示す。

 キャメルが粘っている間に勝負をかける。ちょうど敵BD(バックディフェンダー)も不在だ。

 誰に指示をしなくてもキーパーを狙うことが伝わり、キャメルが逃げる対角線上へチーザたちと連携して追い込んでいく。

 敵FA(フロントアタッカー)の足止めはソルティとクロワが担当。左右から挟まれるのを嫌い、緊急上昇した敵の頭を抑えた。


「逃しはせん!」


 ここまで観察してきたキーパーの癖を見抜き、左へのツイスト回避を予想してそちらへ飛び蹴りの軌道を補正する。

 逆走する二機のモービルギアの正面衝突。全身を電流となって衝撃は駆け抜け、五体バラバラになりそうな感覚に襲われる。それでも、ブラックアウト寸前で意識を繋ぎ止めた。

 位置取りが功を奏し、先方は大地に、こちらは空に放り出される。


『フッ、お任せを!』

『最高の位置取りだぜナック! 愛してる!』


 霞む目の端に捉えたのは急落する敵キーパーと、クロワとソルティのビーム射撃。

 強烈な墜落音が一緒に二つ起こり、実況がゴールコールを叫ぶ。



《ゴルゴーーール! 両チームともゴール! エクリプスは何と! キーパーに対し最高得点(4点)を獲得だーー!》



 キャメルは黄色へと堕ち、敵キーパーは赤へ叩き込んだ。

 大興奮の実況と、地響きのような歓声が少し朦朧とする頭に響く。

 軽く頭を振って再び戦況を見やれば、フィールド中央に陣取り「攻めてこい」という態度の黒雷。

 わざとらしい誘い(ルアー)に眉を顰める。


『点差は圧倒的だ! 怖気づいて客を白けさせる訳にもいかねーだろ? 黒雷狩りについてこいナック!』


 返事も聞かず飛び出すソルティをフォローして後を追う。

 参戦を嫌ってなのか、黒雷はグレネードとミサイルポッドを放ってきた。

 眼前で爆ぜる風から広がる強烈な振動は、グリップ越しに体の芯まで痺れさせてくる。

 爆風が吹き抜けると、一帯が黒煙で覆われた。

 最短距離を断念し、火力が集中するポイントを迂回して翔けると、黒煙の切れ間からソルティ機が弾き飛ばされる様子が見えた。


『クッソ! なんか動き読まれた!』


 弾き飛ばされて悔しがるソルティは、どうにか持ち直している。

 黒雷がソルティとの格闘戦を制したのは、思考加速の臨界領域(コンテンプレーション)の恩恵の筈だが、あのソルティの予測不能な行動を読まれたのは解せない。

 引っ掛かりを覚え、相手の立場になって思考を巡らせる。

 ソルティの動きは読みにくいが、他のメンバーは全員同時に読むのも黒雷にとって苦では無いだろう。味方は全機ソルティをフォローしていた。

 そこで事態に気付き、思わず漏れた舌打ち。


「チッ、ソルティ以外の動きから読まれた! クロワ、距離を取れ!」


 黒煙が晴れる頃には、黒雷とクロワのデッドヒートが視界に飛び込んでくる。

 残存する中で、最も足の遅いクロワ機が狙われるのは当然と言えた。事態に陥るまで気付けなかったことが情けない。


『クロちゃん! 今フォローに!』

「戻れ! チーザ! それが奴の狙いだ!」


 キーパー不在で浮いたクロワを執拗に狙う黒雷。まるで雷の矢と化した黒い機体を必死に追うチーザ。

 足止めに撒かれたマイクロミサイルがもどかしく、ツイストと小刻みなアップダウンで被弾を最小にしても距離が離れていく。ミサイルの着弾音よりも、焦る心臓の鼓動がやけに耳に残る。

 クロワの救援に駆けつけることが叶ったのはチーザのみ。

 黒雷が向かってくるチーザを蹴り飛ばした反動でターンを行い、勢いを殺さずそのままクロワを殴りつけた光景は、強い打撃音と共に体へ緊張を走らせた。


『け、軽微です! でも時間下さい!』

『クッ! フルで対応!』


 体制を崩したクロワが敵の足を止めようと手持ちの火力でフルアタック。

 しかし、グレネードもマイクロミサイルも黒雷に全て撃ち落されてしまう。

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