第7章:廃屋の真実
夜の闇が深くなるほどに、王都の空気はひんやりと冷たくなり、私の肌に刺さるようだった。王宮から遠く離れた場所にある廃屋は、まるで忘れ去られたかのように荒れ果てていた。そこはもう、かつて誰かが住んでいた痕跡すらもない。ただ、木の扉が古び、風雨にさらされ続けたためか、空気には湿気と腐敗の匂いが混じっていた。
「ここか…」
私は静かに呟き、廃屋の前で立ち止まった。マーカスもすぐに私の後に続き、周囲を警戒しながら立ち尽くしている。
「気をつけろ、リリアナ。ここは危険だ。」彼は慎重な表情で私に忠告するが、その声にはほんの少しだけ緊張が滲んでいた。
「大丈夫よ。」
私は無表情で答えると、古びた扉を押し開けた。扉はきしみを上げながら開き、内部の空間が少しずつ明らかになる。暗い廃屋の中に足を踏み入れ、わずかな光源もない中で私の目はすぐに暗闇に慣れていった。床は埃だらけで、時折、踏むたびに軋む音が響く。
「エレナとラルフ王子が関わっていた証拠があるなら、この場所にあるはず。」
私は低い声で言った。
マーカスは黙って頷き、私と共に廃屋の中を調べ始めた。壁のひび割れや、床の隙間に注意を払いながら進んでいく。埃の中に埋もれた古文書や雑然とした家具が積まれた部屋をいくつか通り過ぎ、ついに一室にたどり着いた。そこには、まるで忘れられた隠し部屋のように、壁の一部が少しだけずれている箇所があった。
「ここだ。」
私はその場所を指差し、マーカスに合図を送った。
マーカスは黙ってその隙間に手をかけ、力を入れて壁を動かすと、ゆっくりと隠し部屋の扉が開いた。中には、薄明かりの中で何かが見え隠れしていた。私は息を呑んで足を踏み入れ、部屋の中に広がる光景を目にした。
部屋の中央には古びた机があり、その上にはいくつかの書類が散乱していた。さらに壁の隅には、埃に覆われた棚があり、そこには何冊かの古書が無造作に置かれていた。それらはただの書物ではなく、ラルフ王子とエレナに関する重要な情報を含んでいる可能性が高い。
「リリアナ、これを見て。」
マーカスが一冊の古びた書物を引き出し、私に差し出した。その本は、表紙がかろうじて残っている程度で、内容が書かれたページは何度も手に取られた様子が見て取れた。
「ラルフ王子の名前が載っているわ。」
私は本をめくりながら言った。そのページに書かれていたのは、王子が失踪する前に行った密会の記録や、エレナとの関わりについての暗示的な記述だった。その中には、ラルフ王子とエレナが共同で何かを企んでいたことが示唆されており、その計画の中には王位に対する野心が絡んでいることがわかる。
「これが証拠よ。」
私は静かに本を閉じ、マーカスに渡した。「エレナとラルフ王子は王位を巡って何かをしていた。そして、ラルフが失踪した理由も明らかになるはずだ。」
「だが、これだけではまだ不十分だ。」マーカスは本をじっと見つめながら言った。「王宮に戻って、これをどう扱うか考えなければならない。もしこれを持ち帰ったら、危険な目に遭うかもしれない。」
私は少し考えた後、頷いた。「私たちはこれを持ち帰る。そして、エレナがどれほど危険な存在かを証明するために使う。王宮でこの情報を使う方法を考え、エレナを追い詰める。」
私たちは部屋を後にし、廃屋を出る準備を整えた。暗闇の中、私の心はさらに冷徹に、そして確実に決意を固めていった。エレナの野望がどれほど深く、どれほど王宮の力を影で操っているのか。その全てを暴き、私の復讐を遂げるために。
王宮に戻り、私は再び動き出す。その時、私はもう後ろを振り返ることはないだろう。復讐の炎が、私の中でさらに燃え上がっているのを感じながら。