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第6章:闇の中の糸

 月明かりの下、王都の街並みはどこか神秘的で、静けさを湛えていた。しかし私の心の中は、静寂の中で確実に蠢く闇が広がっていた。リリアナ・ヴァレンス。もはや貴族の令嬢としての面影はなく、私はただの復讐者、復讐の魔女として生きていた。


「リリアナ、準備は整った。」


 マーカスの言葉に、私は部屋から立ち上がり、長いマントを肩に羽織った。今夜、私は王都の裏街へ足を踏み入れる。そこで、エレナの秘密に繋がる糸を探し出さなければならない。彼女の過去が、私の復讐を果たすための鍵となる。


「裏街に行くのか?」


 マーカスは少し驚いたように私を見つめた。


「ええ。」


 私は静かに答えた。


「王宮の高い壁の中では、真実は見えない。だが、裏街では、秘密が暴かれることもある。エレナの過去を知っている者がいるかもしれない。」


 マーカスはしばらく黙って私を見つめていたが、やがて頷いた。


「分かった。だが、気をつけろ。裏街は危険だ。」


 私は軽く笑いながら、外に向かって歩き出した。


「怖れるものなどない。」


 裏街は王都の中でも貴族の目が届かない場所だった。汚れた路地、薄暗い店、小さな酒場。人々は生活に疲れ、必死に生きている。その中には、秘密を握っている者もいるだろう。エレナに関する情報も、この街のどこかに隠されているはずだ。


 私たちは人目を避けるように歩き、ある酒場に辿り着いた。店内は薄暗く、煙草の煙が立ち込めている。目を凝らすと、かすかに笑い声や物音が聞こえ、そこには様々な人々が集まっていた。商人、兵士、盗賊…そして、情報を売る者たち。


「リリアナ、あの男に声をかけろ。」


 マーカスが指さす先には、年老いた男が一人で座っている。彼は私たちが近づくと、静かに目を上げた。目は鋭く、何かを見透かしているような目だった。


「情報が欲しい。」


 私はその男に、冷たく言い放った。


 男は少し考えた後、言った。「何を知りたい?」


「エレナ・ヴァレンスについて。」


 私は名前を出すと、男の顔がわずかに強張ったのを見逃さなかった。


「彼女の過去、何でもいい。秘密を知っている者がいるなら、その場所を教えてくれ。」


 男はしばらく黙っていたが、やがて渋々と口を開いた。


「エレナには、過去に一度、王家の親戚と深い関わりがあった。王宮ではその話は封印されているが…」


 その言葉に、私は一歩前に進み、低い声で尋ねた。「その親戚とは誰だ?」


「それは…」


 男はもう少し躊躇した後、ぽつりと漏らした。


「ラルフ王子だ。」


 ラルフ王子。その名前を聞いた瞬間、私は何か大きなものが自分の中で繋がったような気がした。ラルフ王子は王位を狙っていたことで有名な人物で、数年前に突然行方を眩ませたと言われている。彼がエレナと深い関わりを持っていたということは、何か大きな陰謀が存在している証拠だ。


「ラルフ王子がエレナと何をしていた?」


 私は食い入るように男を見つめた。


 男は一度周囲を見回し、さらに低い声で続けた。


「王宮の中では、ラルフ王子とエレナが結託して何かを企んでいたという噂があった。しかし、何が進行していたのかは分からない。それに、ラルフ王子が失踪した後、エレナは急激にその力を強めた。」


 失踪したラルフ王子と、急成長したエレナ。

 二人が結びついていたのなら、私が考える以上に複雑な事情が絡んでいるはずだ。


「その情報をどこで手に入れた?」


 私はさらに詰め寄った。


「俺も大した情報は持っていない。ただ、王宮の近くの廃屋に行けば、何かが見つかるかもしれん。」


 男はつぶやいた。


「廃屋…」


 私は呟き、その場を後にした。


 マーカスが私を見て言った。


「廃屋が、エレナとラルフ王子の関係に繋がっているのか?」


「そうだ。今夜、廃屋に行く。」


 私は決意を固めた。エレナの秘密が、今、少しずつ明らかになりつつある。その鍵を握る場所が、廃屋にあるのなら、私はそこに足を踏み入れる準備ができていた。


「準備を整えろ、マーカス。」


 私は冷徹な笑みを浮かべ、廃屋へ向かう決意を新たにした。


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― 新着の感想 ―
読み始めたら6章まで一気に進んでしまいました! 復讐がこれからどうなるのか、気になります。 読みやすく、リズム良い文体で、物語がスッと頭に入ってきます。 まずはリリアナの話を追いかけてみたいと思います…
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