第3章:復讐の序曲
魔女としての修行を始めてから、数ヶ月が経った。
最初は思うように力を制御できなかった。炎を操ろうとすれば、周囲の空気を焼き尽くすほどに力が暴走し、風を呼び寄せれば、まるで嵐のような強さで大地を揺るがす。その度に、マーカスが助けてくれた。彼はかつて、王都の近衛隊で鍛えられた剣士だったが、実は魔術にも通じていた。
「リリアナ、お前は思っているよりずっと強い魔力を持っている。しかし、その力を使いこなすには、心を落ち着け、集中しなければならない。」
マーカスの教えに従い、私は少しずつだが、力を抑える術を覚えていった。毎日、修行の合間に彼と共に過ごすことで、心の中の痛みも少しずつ癒えていったような気がする。
だが、それでも忘れられなかったのは、セドリックとエレナのことだった。あの裏切りの瞬間、私はすべてを失った。しかし、同時に新しい自分を見つけた。魔女としての力を手に入れ、私は復讐を誓った。
王都に戻る日が近づいていた。私は、復讐を果たすために何をすべきか、どうすれば彼らを追い詰めることができるのかを考え続けていた。マーカスは言った。
「リリアナ、復讐を果たすには、まず王都に戻り、セドリックとエレナの動きを探ることだ。お前の力を使えば、彼らを追い詰めるのは難しくない。しかし、その前に、もう一つ準備が必要だ。」
「もう一つ?」私は眉をひそめた。
「そうだ。お前の魔力を、王都の人々に見せつけるんだ。恐れを抱かせ、従わせるために。」
恐れを抱かせる。つまり、私が復讐を果たすためには、王都の人々の心に恐怖を植え付け、セドリックとエレナを追い込む必要があるということだ。
「そのために、まずは王都での力を示す。復讐を果たすためには、力を持っていることを示さなければならない。」
マーカスの言葉は冷徹だった。復讐を果たすためには、もはや情けをかけてはいけない。私が求めているのは、ただの報復ではなく、完璧な勝利だ。
王都に向かう道中、私は決意を固めた。もはや以前の私ではない。あの日、婚約を破棄されたあの日から、私はただの令嬢ではなく、魔女になった。そして、その魔女の力で、すべてを取り戻すつもりだ。
「リリアナ、準備はできているか?」マーカスが尋ねる。
私はしばらく黙っていたが、やがて頷いた。
「はい。準備は整いました。」
王都まであと一歩。私の復讐が、今、始まろうとしていた。