第2章:魔女としての覚醒
目が覚めると、私は再びあの古びた教会の床に横たわっていた。体中がだるく、魔力の余波がまだ残っているようで、手のひらからは微かな熱を感じる。目を閉じ、深呼吸をしてみると、静寂の中にひときわ強い力が渦巻いているのがわかった。
魔力だ。
目を開け、辺りを見回すと、暗い教会の中にぼんやりと浮かぶ光の点が見えた。それは、私が感じ取った魔力の源。まだ触れることのできないほど強大な力が、私の内側でじっと目を覚まし続けていた。
──私は、魔女だ。
封印されていた力が、目を覚ました。思えば、幼少期から私は他の貴族の子女たちと比べて、ちょっとした異変を感じていた。物を動かすことができる。水を操ることができる。けれど、父や母はそれを“魔術の才能”として片づけ、あまり深くは考えなかった。
しかし、あの日、婚約を破棄されたその瞬間に、私の中で何かが大きく変わった。そして、今、私の目の前には、全く新しい世界が広がっている。
この力を使って、私は何をすべきか。
何を、しなければならないのか。
「リリアナ?」
そんなことを考えていると、急に声が響いた。その声は、かつての親友、マーカスのものだった。
「マーカス……」
私は立ち上がり、振り返る。彼は教会の扉を開けて入ってきたところだった。彼の瞳は、驚きとともに少しの安堵を浮かべている。
「お前が無事だと聞いて、ほっとしたよ」マーカスは少し微笑んだ。「どうだ? 力を感じ取ったか?」
「はい…」私は小さく答えた。「この力、私のものなんですか?」
「そうだ。お前の中には、代々伝わる魔女の血が流れている。その血が目を覚ましたんだ。お前が受け入れるしかない。」
私の心はざわついた。魔女としての力を使うこと。それは、私の人生を根底から変えることを意味している。
「お前、復讐を誓ったんだろ?」マーカスの目が、真剣そのものだった。「その力を使って、セドリックとエレナに復讐するんだろう?」
私はしばらく黙って彼を見つめた。復讐。あの裏切りの夜が、脳裏に蘇る。あの瞬間、私の心は完全に壊れた。でも、それは同時に私を新たな力へと導いた。
「はい。復讐します。」
その言葉に、マーカスは頷いた。
「それなら、まずはその力を制御する方法を学ばなきゃならない。魔女としての修行が必要だ。」
「修行?」
「そうだ。魔女には、使うべき術がいくつもある。復讐を果たすためには、その術を使いこなす必要がある。」
私は無言で彼の言葉を受け入れた。魔女としての力を覚醒させ、使いこなす。その先に何が待っているのか、今はまだわからない。ただ、ひとつだけ確かなのは、私はもう、以前のような無力な令嬢ではないということだ。
「リリアナ、覚えておけ。お前が求めているものは、ただの復讐ではない。お前が手にするべきは、力そのものだ。復讐を果たすために、そして自分の未来を切り開くために。」
マーカスの言葉が胸に響く。私は強く頷いた。
「わかりました。」
私は新たな決意を胸に、魔女としての修行を始めることを決意した。この力を使いこなし、復讐を果たし、そして自分自身を取り戻すために──。