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 第四章 名探偵の推理(?)と真犯人の正体

弓道部編のスピンオフです。

「実は……金のたい焼きは……」


 会長の言葉に、商店街の人々は固唾をのんで耳を傾ける。


 おじいちゃんも、杏子も、じっと会長の顔を見つめていた。


 そして――


「……最初から、無くなっていたんだよ……」


 会長がそう告げた瞬間、会場中にどよめきが広がった。


「えええええええええええ!?」


 そして、杏子は思わず詰め寄る。


「ちょっと待ってください、それってつまり……?」


 会長は、どこか気まずそうに頭をかきながら話し始めた。


「実は……金のたい焼き、イベントの準備中に一度確認したときにはすでに無くなってたんだ。でも、商店街のシンボルとも言える賞品だから、すぐに『無くなった』とは言えなくて……」


「だから、ずっと黙ってたんですか……?」


 杏子は呆れながらも、会長の心情を想像する。確かに、このイベントは商店街にとって大きな行事だ。もし、金のたい焼きが紛失したことを事前に公表していたら、大混乱になっていたかもしれない。


「それで、どうしようか考えているうちに、結局そのまま開会を迎えてしまったんだ……。でも、開会式で鍵を開ける段階になって、いよいよごまかしがきかなくなった」


 会長は、申し訳なさそうに肩を落とした。


「なんてこったい……」


おじいちゃんは呆れたように呟き、杏子も深くため息をつく。


 つまり、今回の事件は「盗難事件」ではなく、最初から無くなっていたことを誰も知らなかっただけ というオチだったのだ。


(つまり……おじいちゃんのトンチンカン推理も、最初から何の意味もなかったってこと……? 頑張ったわたしっていったい?)


 そう考えた瞬間、杏子はものすごい脱力感に襲われた。


「ふふふ……」


 そのとき、笑い声が聞こえた。


「なんじゃ、そういうことか!!」


 おじいちゃんである。


 大きく胸を張り、満面の笑みを浮かべていた。


「つまり――ワシの推理は、正しかったということじゃな!!」


「いや、全然違うよね!?」


 杏子は思い切りツッコんだが、おじいちゃんはまったく意に介さず、ドヤ顔で腕を組んでいる。


「結局、金のたい焼きは『盗まれたわけではない』のじゃろう? ということは、最初からワシが疑っていた『何かがおかしい』という直感は大正解だったというわけじゃ!」


「いやいやいやいや、おじいちゃん、最初に全然関係ない人を犯人扱いしてたよね!? すごいドヤ顔で指差してたよね!?」


「むぅ……細かいことはよいのじゃ」


 おじいちゃんは「細かいこと」の一言で自分のミスをすべて片付けるつもりのようだった。


「ともかく、事件の真相は解明されたわけじゃ! やれやれ、名探偵の肩の荷が下りたのぉ……」


「本当に何もしてないよね!?」


 杏子のツッコミが止まらない。


 商店街の人々も、「なーんだ、盗まれたわけじゃなかったのか」とほっとした表情になっている。


 しかし――


「じゃあ、優勝商品はどうなるんですか?」


 誰かがそう呟いた瞬間、再び会場にどよめきが走った。


「そうだよ、せっかく優勝したのに、何ももらえないなんて……!」

「金のたい焼きを目当てに参加したのに!」


 優勝者と思われる大柄な男性が、腕を組みながら眉をひそめる。


「どうするんですか、会長?」


 会長は「ううっ……」と困惑し、額に手を当てていた。


 すると――


「ふっふっふ……仕方ないのぉ」


 またしても、おじいちゃんが前に出た。


「名探偵たるもの、ただ事件を解決するだけではなく、人々の笑顔を取り戻さねばならん……!」


「えっ、ちょっと待って、おじいちゃん、何するつもり……?」


 杏子が不安げに見守る中、おじいちゃんは、ポケットから何かを取り出した。


「ワシが作った、“金のように輝くたい焼き” をプレゼントしよう!!」


 おじいちゃんが掲げたそれは、妙にカチカチに焼かれたたい焼き だった。


「……えっ、それ何?」


「ふむ、実はな、わしは朝から密かに特製のたい焼きを焼いておったのじゃ。金のたい焼きに匹敵する輝きを出すため、何度も何度も焼き直した結果――このような神々しい色合いになったのじゃ!!」


「いや、それただの焼きすぎじゃないの? それもう石みたいになってるけど?」


「うむ、硬さは金にも匹敵するぞ」


「それもう食べ物じゃないよね!? もはや凶器だよね!? 歯折れちゃうよねっ」


 杏子の必死のツッコミもむなしく、おじいちゃんは勝手に優勝者に「金のように輝くたい焼き」を手渡した。


 大柄な優勝者は、恐る恐るたい焼きを受け取ると……ゴリッ。


「……か、硬い!!」


「だ、大丈夫ですか?」


杏子が心配そうに声をかけるが、おじいちゃんは自信満々に、


「ほっほっほ……それこそが、ワシの名探偵魂が込められたたい焼きじゃ!」


「何それ!? どういう理屈なの!?」


 会場中が大爆笑に包まれ、最初の事件の緊張感はすっかり消え去ってしまった。


 不動会長も「まぁ……これでみんなが笑ってくれるなら、結果オーライかな……」と苦笑いしている。


 そして、杏子は深い深いため息をついた。


「……もういいや。これで解決ってことにしよう」


 空には夕焼けが広がり、オレンジ色の光が商店街を照らしている。


 おじいちゃんは得意げな顔で、ポケットからもう一つたい焼きを取り出して食べ始めた。


「事件は解決したな!」


「まったもう。いったいいくつ入ってるの? いい加減食べ過ぎだからねっ。

それに、おじいちゃん、全く何もしてないからね?」


「名探偵とは、時に見守ることも大事なのじゃ……」


「いやいやいや……」


 杏子は呆れつつも、結局笑ってしまった。


 こうして、「金のたい焼き失踪事件」は、名探偵(?)おじいちゃんによって(?)無事解決(?)したのだった――。


《完》

最後までお付き合いいただきありがとうございました!

おじいちゃんのトンチンカン推理と、ぱみゅ子のツッコミの応酬を楽しんでいただけたら嬉しいです。


不動会長「わたし、本編では重厚な人格者なんだけどな」


意外な人物が犯人。これがミステリーの基本じゃっっ。


結構楽しいので、多分続編あります。

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