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38. 夜会襲撃の真相





 部屋にいたクリスティーナたちはぎょっと顔を見合わせた後、すぐに扉の前で礼の姿勢をとる。



 ガチャリと音を立てて扉が開かれると、ルイス国王、ヴォルフガング、シュネーハルト公爵夫妻、そしてローテントゥルム公爵が入室してきた。



 頭を下げるクリスティーナ達を見て国王は口を開く。


「よい、楽にしてくれ」


「恐れ入ります」


 マルガレーテがそう言って姿勢を戻したので、クリスティーナやレイアたちもカーテシーの姿勢から元の姿勢に戻した。


 国王はちらりとクリスティーナとマルガレーテの後ろに控えているレイアたち侍女に目を向けると、クリスティーナに向かって言う。



「侯爵夫人も交えてクリスティーナ嬢に話がある。侍女たちには席を外してもらえるだろうか」


「はい。承知いたしました」



 クリスティーナが振り返り目配せをすると、レイアは頷いて三人の侍女たちと共に部屋を後にした。




 客間には大きなソファーが三つと一人掛けのソファーチェアがひとつ置いてあった。


 ソファーチェアに国王が座り、右側のソファーにシュネーハルト公爵夫妻、国王の正面にローテントゥルム侯爵家夫妻、左側にクリスティーナとヴォルフガングが座るという配置になった。



 全員が席に着くと、ヴォルフガングは周囲に盗聴防止魔法をかける。

 それを確認すると、国王はクリスティーナの方を向いて頭を下げる。



「クリスティーナ嬢、エカテリーナを守ってくれたこと、心から感謝する」


「へっ、陛下! 頭をお上げください!!」



 クリスティーナは慌てて頭を上げるように進言するが、国王は頭を下げたまま話し続ける。



「いや、エカテリーナだけでなく、ヴォルフガングの命まで救ってくれたのだ。ヴォルフガングは臣下である前に、私の唯一無二の友人。礼を言わせてくれ。本当にありがとう……」



 膝の上で握られている拳が震えていることに気がついたクリスティーナは、前のめりになった姿勢をもとに戻した。



「……陛下のお心遣いに感謝いたします」



 クリスティーナがそう言うと、国王は顔を上げてほっとしたような表情を浮かべる。

 それから席に着いている全員を見渡して、ゆっくりと話し始めた。



「まずは、襲撃を計画した者と今後の処罰について話をしておく」



 その言葉だけで部屋の空気が一瞬にして張り詰める。

 



「……襲撃を扇動したのはグロスマン伯爵令嬢、サリュー・グロスマンで間違いない。グロスマン伯爵は今回の件について関与していないようだが、娘の監督不行き届き、以前から手を付けていた帝国への違法な手段での貿易や出稼ぎの手引きで処罰することとした。そしてグロスマン伯爵一家は、爵位と領地を没収したのち、闇の森の塔へ幽閉されることになる」



 闇の森は王国の南にある魔獣の住む森だ。塔への転移は魔法で行われるが、そこから出る手段はない。塔の結界から一歩出れば、そこは人間を食らう魔獣の森。魔法で送られる最低限の食料のみで、命尽きるその時まで塔の中で暮らすことになる。ルクランブル王国で処刑の次に重い刑罰だ。




「夜会を襲った魔導具は、帝国将軍の子息からグロスマン伯爵令嬢が入手した事が確認できている。半年ほど前から将軍家は、グロスマン伯爵家へ魔導具やドレス、宝飾品の違法な輸出を行っていた。その関係で、将軍が地位を追われた後、子息はグロスマン伯爵家へ身を寄せていたそうだ」



 王太后との茶会の席でも晩餐会でも、帝国のドレスを参考にデザインしたというドレスを身に纏ったグロスマン伯爵令嬢。

 その時一緒に身につけていたアクセサリーは、帝国でしか採れない宝石を使ったものだったと改めて気が付き、クリスティーナは納得した。




「その間に、我が国を弱体化させ帝国の侵攻を手引きするという利害が一致し、今回の襲撃に繋がったと見られている。子息がヴォルフガングを襲ったのは、計画外の犯行であったと子息も証言している」



 魔法銃を持っていた将軍の子息はまだ十代中頃のようだったことをクリスティーナは思い出す。二人のした事は許される事ではないが、クリスティーナは二人を哀れに思った。



「今回の件で帝国は子息の身柄と引き換えに、我が国、そしてパトリーチェ王家に賠償金を支払うことになった。先日結んだ不可侵条約は十年に延長され、許可なく国境を越えようとした者は即処刑ということで決着がつきそうだ。今、ザルヴァトル公爵とヴァルナー公爵が締結に向けて動いている」



 事実上の国交断絶に近い状態に、親帝国は打撃を受けるだろう。親帝国派の貴族たちの恩恵を受けていた傭兵や商人たちへの対策も早急に対処せねばならないと国王はため息をついた。




「最後に、女神の星が攻撃された件について」


 国王がクリスティーナとヴォルフガングの方を見てそう言った。



「儀式の最終日に女神の星を攻撃したのは、帝国の反皇帝派の魔術師だという事が分かった。女神の魔法を貫くほどの魔術を発動した帝国の術師は、その反動ですでに亡くなっているという事だ。それも我が国の侵略、そして自国のクーデターを見据えての犯行だと思うが、皇帝の意に何度も背いた反皇帝派は粛清を受けるだろう。以上だ」



 自分への沙汰が下されるものだと思っていたクリスティーナは、あっさりと話が終わってしまった事に驚き口を開く。


「……陛下、発言をお許しください」



 国王が空色の瞳をクリスティーナに向けて頷いた。



「その……わたくしの処遇については、どのように……」



 口ごもるように言ったクリスティーナに返ってきたのは、想像とは違う反応だった。



「何の事だ」


「え?」



 クリスティーナは思わず目を丸くして情けない声を漏らした。


 ルクランブル王国に生まれた全ての子どもは、生後六週間目に星の洗礼という儀式を行い、魔力量の測定と適性を知る事ができる。


 貴族の場合は例外なく、その魔力量と適性が神殿から国へ報告される。成長に伴い新しい適性を発現した場合も同様だ。

 それが治癒魔法などの特殊な魔法であればあるほど、報告する義務は重くなる。


 クリスティーナが扱う、事象を魔法式にして読み取る魔法は、発現した時すぐに侯爵が国王に報告し、国家機密扱いとなっている。



 しかし、時を戻す魔法はその真実を家族にも知らせず、二度も国の存続に関わる事件で使用していた。報告の義務を怠り国王を欺いた罰で、魔封じの刻印を押され、一生魔法を使えなくなるものだとクリスティーナは考えていたのだった。

 


 そう思っていたのは母であるマルガレーテも同じで、国王の反応が信じられないというように口元を手で押さえていた。




 クリスティーナとマルガレーテの様子を見た国王はふうっと息を吐く。



「類稀なる魔力で聖女の儀式を終え、騎士団長にも匹敵するほど精度の高い魔法で不届者共を拘束した。その上、私の友人の命を治癒魔法で救った。騎士団からも諜報部からもそのように報告を受けている」



 クリスティーナがヴォルフガングや父に視線を向けると、二人は穏やかな表情のまま頷いた。


 ヴォルフガングを救った魔法は治癒魔法としては明らかに違っていたが、国王とシュネーハルト公爵家、そしてローテントゥルム侯爵との間で、精度の高い治癒魔法だとクリスティーナを守るためにそう結論付けられていたのだった。



 動揺を隠せない紫色の瞳を国王へ向けると、ソファーチェアに深く腰掛けたまま、笑みを浮かべた国王が声を潜めて言った。



「……誰にでも秘密のひとつやふたつ、あるものだ。それを正しく使う者を誰が咎める事ができよう」



 特殊な魔法を隠していた事を罪に問われる事はなく、またそれが外に漏れる事もないという意味であった。マルガレーテもその事を理解し、胸を撫で下ろした。



「ロゼとしても、次期シュネーハルト公爵夫人としても、これからも変わらず精進してくれ」


「はい。陛下、感謝いたします」



 そう言いながらクリスティーナが頭を下げる。張り詰めていた緊張は解け、部屋には和やかな空気が流れていた。

 その空気が耐えられないようにプルプルと震えている人物が一人だけいた。



「陛下! 私は娘の結婚をまだ認めておりません……!」


 涙目でそう言ったのはローテントゥルム侯爵だった。




 国王が面白いものを見るようにヴォルフガングに目を向ける。



「……だそうだぞ? ヴォルフ」



「私も精進します……」



 苦笑いを浮かべたヴォルフガングに、国王と公爵夫妻が声を出して笑いだす。そして国王の前にも関わらずおろおろと泣く侯爵をクリスティーナとマルガレーテがなだめていたのだった。






前回の投稿から日が空いてしまいましたが、戻ってまいりました(>人<;) 今週末、ついに完結です!本日も読んでくださりありがとうございます!最後までお楽しみいただけると幸いです(*´꒳`*)

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