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37. 家族との再会





 クリスティーナたちが王宮に戻ったのは、日が昇りきった正午を過ぎた頃だった。




「クリスティーナ!!」


 馬車から降りたクリスティーナに駆け寄ってきたのは、ローテントゥルム侯爵だった。



 侯爵は目を潤ませたままクリスティーナを抱きしめる。

 その腕が少し震えていることに気がついたクリスティーナは、申し訳ない気持ちででいっぱいになった。



「お父さま……。心配をかけてごめんなさい……」


「無事で本当に良かった……」



 そう呟いて体を離した侯爵は、クリスティーナの頭を手刀で軽く突いた。


「これは無茶をした分」



 屋敷でのクリスティーナの行動は全て諜報部隊から侯爵に連絡が入っていた。

 エカテリーナ王女を逃すために囮になった事、父が治癒魔法だと思っていた魔法でヴォルフガングの傷を治した事。


 クリスティーナが父が全て知っている事を察して、謝罪の言葉を口にしようとした時、頭にあった侯爵の手がクリスティーナの頭を優しく撫でる。



「これはティーナが頑張った分。侯爵家の娘としてでもなく、臣下としてでもなく、人として正しい行動をした。誰かのために行動できるティーナは僕の自慢の娘だよ」



 父の言葉にクリスティーナは目を潤ませたが、眼鏡の奥にあるクリスティーナと同じ紫色の瞳は優しく細められていた。



「さあ、客室へ案内してもらいなさい。マルガレーテとレイアが着替えを用意して待っているから」


「はい。お父さま……助けてくれてありがとう」



 クリスティーナは侯爵の目を見つめてそう言うと、王宮のメイドに案内され客室へと向かった。



 その後ろ姿が涙で滲んで見えなくなった侯爵は眼鏡を取ってハンカチで涙を拭った後、近くでその光景を見ていたヴォルフガングを振り返って言った。



「僕のティーナは……! うちの可愛い娘は嫁にはあげません!」


「え……!?」


 突然の言葉に目を大きく開いて驚くヴォルフガング。



「ちょ……侯爵……!」


 あまりの衝撃に何も言葉が出ないヴォルフガングを置いて、侯爵はスタスタと王宮の中へ消えて行った。



 いつも表情を崩さないヴォルフガングが慌てふためき愕然とする姿に、一部始終を見ていた者たちは笑いを堪えていたのだった。






* * * * * *





 クリスティーナが王宮の客室に着くと、部屋にはクリスティーナの母マルガレーテとレイア、そして夜会の準備を手伝ってくれた三人の侍女たちが待っていた。




「クリスティーナ……!」

「お嬢様!」



 マルガレーテとレイアがクリスティーナに近づき、無事を確かめるようにクリスティーナの頬をマルガレーテが何度も撫でた。


「ああ、本当に……無事で良かったわ……」



 目に涙を浮かべる母にクリスティーナは子供のようにぎゅっと抱きつき、堪えていた涙を流した。




「よく頑張ったわね、わたしの可愛い子」


 マルガレーテは震えるクリスティーナの頭を撫で、小さな子どもをあやすように暖かい声で言う。



 部屋の中には、クリスティーナとレイア、侍女たちの鼻をすする音だけが響いていた。




 しばらくして落ち着いたクリスティーナは顔を上げて、涙を拭いながら口を開く。


「お母さま、みんな、ありがとう。心配をかけてしまってごめんなさい」



「お嬢様がご無事ならいいのです……!」


 微笑むマルガレーテの後ろで、まだ涙の止まらないレイアがそう言った。他の侍女たちもレイアに同意するように頷いている。


 クリスティーナはその光景を見て、無事に帰って来れた事を改めて実感した。そして母の腕を離れ、レイアと侍女たちに近づいて言う。



「遅くなってしまったけれど……約束通り、着替えを手伝ってくれるかしら……?」


 眉を下げて申し訳なさそうに微笑むクリスティーナを見て、レイアも侍女たちも、さらに涙を流して大きく頷いた。




 クリスティーナは客室に用意されていた浴室で湯浴みを済ませ、レイアたちの手伝いであっという間に着替えが終わり、髪も綺麗に整えられた。



「クリスティーナ、お腹は空いている?」


 レイアが出してくれたお茶を飲みながらソファで一息ついていると、マルガレーテがクリスティーナに尋ねる。



「いえ、あまり」


 まだ完全に抜け切っていない緊張と睡眠薬で空腹を感じるまでに至っていなかったクリスティーナは首を横に振る。



「そう……」


 悩ましげにまつ毛を伏せる母を見て、クリスティーナはある事を察して口を開いた。



「もしかして、陛下へのご報告に呼ばれているのですか?」


 驚いたマルガレーテとクリスティーナの視線が合う。


「……ええ。でも戻ったばかりだし、無理はさせたくないわ」



 時を戻すクリスティーナの特殊な魔法のことはすでに国王まで報告が上がっていた。それをマルガレーテも知っていたのだった。




「お母さま、わたしは大丈夫です。魔法のことも、報告しなければならないですから……」



 クリスティーナが「魔法のことも」と言うとマルガレーテは丸い目を一層見開き、また悲しそうに伏せた。そして、クリスティーナはテーブルにティーカップとソーサーを戻して立ち上がる


 その時、部屋の扉が三回叩かれた。






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