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28. 小公爵が求めるのは





「遅くなり申し訳ありません。準備に時間がかかってしまいました」



 跪くヴォルフガングに近づいた国王は、肩に両手を置きヴォルフガングを立ち上がらせる。




「……無事で何よりだ。ヴォルフガング」



 そう言った国王の空色の瞳は家臣を見る目などではなく、友の帰りを心から喜ぶ瞳をしていた。



 ほんの僅かな間視線を合わせ、ふたりは再会の喜びを分かち合うと、国王はヴォルフガングに背を向け玉座へと戻る。

 

 ヴォルフガングと国王に視線が集まる中、玉座の前に立ったままの国王は、目下に集まる全員に聞こえるように言った。




「ヴォルフガング・フォン・シュネーハルト! 其方の父であるアルフレッド・フォン・シュネーハルト公爵から、長子である其方へ公爵位継承の申請がなされておる。それを今ここで承認する」




 その言葉を聞いたヴォルフガングの金色の瞳が少しだけ見開かれるのと同時に、パラパラとした拍手が聞こえ、それは次第に広間を揺らすほどの大きな拍手に変わった。



 爵位の継承の件はヴォルフガングにさえも知らされていなかった。ヴォルフガングの遠征が決まった後、シュネーハルト公爵夫妻が無事に戻ってきて欲しいとの願いも込めて、国王に申請を出していたのである。

 




「そして、新たなる英雄、ヴォルフガング・フォン・シュネーハルト公爵をルクランブルク王国魔法騎士団の団長に任命する」



 その瞬間、割れんばかりの拍手が広間に鳴り響く。


 騎士団の団員からも慕われていたヴォルフガングの団長就任に、目を潤ませる若い団員もちらほらといる中、参列していたマクシミリアン副団長は「よかった、よかった」と号泣し、周りに若干引かれていた。


 勲章を受け取るヴォルフガングを見つめるクリスティーナの瞳にはもう涙はなかった。



(公爵様になられて、騎士団の団長にも就任されて、一気に遠くなってしまったみたい)



 クリスティーナは嬉しい気持ちと寂しい気持ちが入り混じった、複雑な思いを感じながら、勲章を受け取るヴォルフガングを見つめていた。



(これで安心して領地に引きこもれるわね……)



 そう思った時、クリスティーナの胸がチクリと痛んだ。




 ヴォルフガングが勲章を胸に身につけ拍手も落ち着いてきた頃、国王がヴォルフガングに尋ねる。



「他に褒美として求めるものはあるか?」



「それでは……」



 ヴォルフガングはちらりとクリスティーナの方を見て、再び国王に視線を向ける。




「この国のロゼを私の妻として娶りとうございます」




 誰も予想していなかった言葉に、会場からざわめきが起こる。クリスティーナの脳内はパニック状態で鼓動は速く波打っていたが、それを誰にも悟られないようにただ微笑んで平静を装っていた。



 ヴォルフガングの申し出を聞いた国王は、面白そうに空色を細めて言う。



「ほう……。しかし、ロゼ……ローテントゥルム侯爵令嬢は王妃候補に名前が上がっている」



「ええ……ですから陛下にお願いしております」



 国王の揶揄うような瞳の色に気がついたヴォルフガングの眉がピクリと不服そうに動いた。



「今は考査中ゆえ、余の一存では何とも言えぬ」



 国王のこの発言は、ヴォルフガングを揶揄うための嘘であった。


 もうすでに考査を合格した令嬢が王妃候補として、二ヶ月前の王太后の茶会に呼ばれていた。その上、国王が覚悟を決めて、意中の相手に求婚を済ませればいいだけの段階なのである。



 金色の瞳を伏せて「そうですか」と息を吐いて呟いた後、ヴォルフガングは再び国王を見上げた。



「では、エカテリーナ王女殿下を。魔導具の街であるシュネーハルト領にとって、魔石の採れるパトリーチェ王家との縁談はこの上ない褒美にございます」



「認めぬ」



 先ほどとは違い、すぐに却下した国王にヴォルフガングはしたり顔を見せる。




「陛下はおふたりとも娶る気でおられるのですか」



 些細な意趣返しに国王にそう告げるヴォルフガング。初めて色恋の気配を見せた友人を揶揄ったつもりが、逆にやり返されてしまった国王はため息をつく。




「……婚約については……ローテントゥルム侯爵令嬢の希望に任せる」



 その言葉に一番驚いたのは、他でもないクリスティーナだった。

 それは、クリスティーナが王妃候補から外れる事を意味しているからだ。



「感謝いたします、陛下」



 そして式典が終わり、今夜は祝いの夜会が開かれる事が通達されてお開きとなった。




 ヴォルフガングの表情が満足げに見えていたのは、クリスティーナだけではなく、式典が終わった後は、あの氷の小公爵が薔薇姫に恋をしたという話で持ちきりだった。



 話題の中心になってしまったクリスティーナは、令嬢や夫人たちの質問責めに合う前にと、ヴォルフガングと顔を合わせる事なく急いで王宮を後にした。




 クリスティーナが邸に戻ると、満面笑みのレイアが同じく笑顔の侍女たちとクリスティーナの帰りを出迎えた。



「おかえりなさいませ、お嬢様。 シュネーハルト小公爵様から贈り物が届いておりますよ」



「ヴォルフ様から?」



 部屋に戻ると、二つの大きな箱とステラスノーストームの花束が置いてあった。


 クリスティーナが花束を抱えると、そこにはメッセージカードが添えてあることに気がつく。

 カードにはヴォルフガングの字で『愛するクリスティーナ』と書かれており、それを見たクリスティーナは頬を赤く染めずにはいられなかった。




『愛するクリスティーナ

 薔薇姫に薔薇の花を贈るのは気おくれしてしまったので、貴女が教えてくれた青く光るステラの花を贈ります。

 夜会では、一緒に届けたドレスと宝飾品を身につけてくれたら嬉しい』




 クリスティーナが箱を開けると、濃紺のドレスに銀色のグリッターが施された満天の星のようなドレスが顔を出す。そして隣の箱には、ゴールドの五芒星のイヤリング、ネックレス、ヘアアクセサリーが納められていた。



 それを見たレイアが「まあ……」と声を漏らす。



「お嬢様、愛されてらっしゃいますね」


「えっ!?」



 レイアが嬉しそうにクリスティーナとドレスを交互に見つめる。



「だって、全て小公爵様のお色ではないですか。それに、アクセサリーの五芒星はシュネーハルト家の紋章……。本当に良かったです……お嬢様!」




 自分でも薄々気がついていたことをレイアに口にされ、クリスティーナは恥ずかしさで顔から火が噴き出しそうになっていた。



「もう……からかわないで……」



 クリスティーナは顔を見られないようにステラの花束で顔を隠す。


 すっかり恋する乙女の顔になったクリスティーナのことを、レイアは嬉しく思わずにはいられなかった。


 それは他の侍女たちも同じ気持ちだった。それ程までに、ヴォルフガングが遠征に赴いていた期間のクリスティーナは、目も当てられないほど落ち込んでしまっていたからである。

 



「今日の夜会に向かう際は、小公爵様が馬車でお迎えに来られるそうですよ! 急いで準備しましょう」



 レイアの言葉にクリスティーナがはっとして時計を見ると、夜会まであと三時間を切ったところだった。







クリスティーナとヴォルフガングのやり取りまでいきたかったのですが、長くなってしまったので本日はここまでです(>人<;) 恋心を自覚したふたりがどのような言葉を交わすのか、次回をお楽しみに♫ 今日も読んでくださったありがとうございました(๑˃̵ᴗ˂̵) 明日も読んでいただけますと幸いです! 素敵な金曜日の夜をお過ごしください☆

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