秒針は日々の記憶を思い出す記憶の扉。
私は病院のベッドに横たわりながら、ふと思い出したことがある。もう何十年と前の事だが私は若い頃、あるお屋敷に仕える者だった。今から話すのはその頃の12月31日のこと。
「オレオルよ、誕生日はいつだったかな?」
「誕生日…ですか?私の誕生日は1月9日です。」
「そうか。」
この頃はなんのために聞いたのか分からなかったが、むかえた誕生日の日にわかった。私のご主人様は誕生日プレゼントを用意してくれていたのだ。
「これは…?」
渡された物は木の色と木目が美しい時計だった。その時計は当時、絶対に止まらない時計ということで有名だった。
「そなたと我はこの時計のように永遠だ。これからもよろしく頼むぞ。」
…が、そう言った4日後。私のご主人様は急な病に襲われ、命を落としてまった。もっと私がちゃんとしていれば、もっと私がそばにいたらこんなことは起こらなかったのに…。大切な人を失ったショックで泣き続ける1日だった。
もう帰ってくることがないあの人。もう二度とあの人の声を聞くことができない。もうあの優しさに触れることはできない。…だけど、私のご主人様が亡くなる前、一つ言ってくれたことがあった。
「そなたはわしを包み込むような光のように優しい存在だった。…最期に願いを一つ。わしを包み込んでくれないか?」
…だ。もちろん私は迷うことなく抱きしめた。ふと今、空にいるご主人様に手を伸ばしてみた。…何も感じないはずなのに、あの頃の温もりが蘇ったような気がする。あの温かい感じ、あの懐かしい感じ。その時、私の目から出た何かが顔を伝い、首元に落ちた。
あの温もりにもう一度触れることができたのなら…。どんなに幸せだろうか。
机の上に置いてある貰った時計をただゆっくりと眺めてみる。秒針はチクタクと進む。その一秒一秒がご主人様と過ごしたあの日々のようで、思い出しては涙が溢れて止まらなくなった。
あぁ…もう一度、一度でいい。またあの人に会いたい。そう思うほど、余計に涙は止まらなくなってしまった。
でももう、泣く必要はない。
チクタクと進む秒針はまだまだ止まらない。そして、これからの誰かの一日をまた刻んでいく。だけど、この世に存在するものの全てには限りや命などがある。
私ももう、その頃だろう。
今、会いに行きますね。
ピー…という音とともに1月13日。私の意識は暗闇へと沈んでいった。
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