8話 答えの中で
カラオケが終わり、次どこに行くかみたいな話になっている中、小宮が俺はパスと言ったことで解散の流れになった。
初野がどう行動するのか、様子を見ているとすっと桃井が俺に近づいてきた。
「なんだよ」
「とっておきの情報だよ」
楽しそうに告げる彼女は、俺の耳元で囁くようにして言葉を続ける。
「舞花がこれから告白するらしいよ」
それを聞いて少しホッとしたような気持ちになった。
これでフラれたら俺への頼みこととやらも終了する。
「で、それは今からなのか?」
「うーん、わからん」
まだ日は沈み切っておらず、告白するには微妙な時間。
しかも大勢のカラオケで少し話した程度、もう少し雰囲気作ってからの方がいいと陰キャながら提案してみる。
まあこんな提案せずとも初野ならわかっていると思うが。
その予想通り、桃井はひそひそと呟いた。
「多分だけど、少し遊んでから告白するんじゃないかな」
「……そうだろうな」
だから小宮は断ったわけだ。
「どうする?」
桃井が興味津々な目をして俺に問いかける。
何が言いたいか、わかるよね! とでも言いたげな顔をしてるのが非常にムカつく。
つまり、後をついて行って様子を見たいのだろう。
確かに俺も二人の同行は気になるし、告白が成功するのかは一番知りたい部分でもある。初野が告白にフラれた場面など見たことないが、今回は些か条件が違う。相手はどこかの誰かに告白してる最中、そう簡単に成功はしないだろう。
「ついていく」
「おー、神来ならそう言うと思ったよ」
バシバシと背中を叩き、嬉しそうに言う桃井。
「俺もついて行くぜ」
「七星……、お前はいらない」
「神来!? 俺たち友達じゃないか」
なんだかコイツがいると一瞬で尾行がバレそうな気がする。
そこそこ身長も大きく、アホだから目立つ行動をすぐとってゲームオーバー。だが盛り上げ役には最適かもしれない。
「大勢、居た方が楽しいよね。あっ、二人で歩き出したよ」
グループから抜け出し、適度な距離を保ちながら小宮と初野は歩き出した。
その様子を見ながら俺たちも動き出す。
「さあ、出発進行!」
◇ ◇ ◇
そろそろ夕方七時、夕食を食べに行った後、駅のデパートによって雑貨屋や服屋によったりして雰囲気自体は凄く良さげだった。
「なんかあんま面白くないね」
冷めた様子の桃井は、当初のテンションは既になくなっていた。
逆に七星は段々と楽しそうな表情を見せる。
「……お前、なんでそんなワクワクできんだよ」
「いや、なんかアレじゃね。友達のデート姿とか新鮮で面白いだろ」
「そうなの?」
桃井が不思議そうに尋ねてくるが、俺にはわからない。わかるはずがない。
ただ一つ言えるのは、
「楽しくは、ないな」
そう言ったと同時、二人が動き出す。
「あ、公園に行くみたいだね」
俺の話を聞く気がなかったのか、返す言葉が見つからないのかわからないがやっぱり桃井とは仲良くなれそうにない。
七星が嬉々とした表情で二人の後をついて行き、桃井そして俺と続く。
公園に行き、いよいよ告白するのかと思って初野の様子を見守る。
だが先に動いたのは小宮の方だった。
『俺の告白の返事、聞かせてくれるんだよね』
『……うん』
小宮が告白していた相手は初野だった。
……は?
意味が分からないと直感的に思った数秒後、ふと府に落ちる。
なんとなく抱いていた違和感の正体を突き止め、俺は段々と冷静になっていく。でも桃井は状況を理解していないのか、明らかに動揺していた。
告白されていたのに、なぜあんなお願いを俺にしたのか。
シンプルにYESと返事をすればいいものを……、いや初野のことだ。どうせロクなこと考えていないんだと思う。
なんの為に俺に協力させ、わざわざこの状況を見せつけたのか、本人に聞かないと一生答えなんて出ないだろう。
はぁ、と一つため息を吐いていると隣で様子を見ている七星に気が付いた。
物音一つとして立たせず、落ち着いている。
「お前、知ってたのか」
「初野に告白していたことは知らなかった。でも小宮が初野を好きなのは見てればわかった」
『で、俺と付き合ってくれるの?』
『ごめん、やっぱ無理』
『……なんでこんな待たせたんだ』
『それは、好きな男のため……とか?』
『…………』
「俺、帰るわ」
「七星?」
「小宮がフラれて俺は満足した。もう興味ないし」
「え、ちょっと……なんであたしも連れて行くの!?」
あっという間に一人取り残された俺は、公園の街灯の下で照らされている幼馴染の元へと歩き出した。