7話 恋の欠片
放課後のカラオケボックスには俗に言う小宮グループに加えて俺と初野というメンバーが集まった。
普段通りの面子に俺たち二人が追加されたくらいで動じることなく、意気揚々と皆はカラオケに入店した。
その最後尾に俺と初野、それから桃井がいる。
初野は普通に入って行こうとするが、俺の足取りは重い。
こういう空気はあまり得意ではない、というか寧ろ苦手。病院はいつも静かだったしそれに慣れていたからというのもあるだろう。
入るのにびびっていると、桃井が俺の背中を押す。
「ほら、入った入った」
とりあえず七星の隣に座ると、気持ち悪そうにこちらを見てきた。
「なんだその眼は」
「いやそこは女の子が座る予定だったんだが」
「本当に座る予定だったのか? 俺が最後尾だが」
「ばっかお前、知らない女の子がちょこんと座ってくれるかもしれないだろ」
「どういう経緯でこの部屋に入って来るんだよ」
そう言うと、確かに。と頷いて七星は何も言わなくなった。つーかさ、二番目か三番目に入店したクセに誰もこいつの隣に座ろうとしなかったのか。
笑いを堪えながら話を変える。
「それより小宮と初野、隣に座らせたんだな」
本来なら俺がやるべき手立てをもう既にやってくれている。
「桃井が無駄に張り切ってな。小宮も別に満更でもなさそうだしうまくいくんじゃねえの」
「他人事だな」
「はぁ、人の恋路とかどうでもいいし。俺は俺の恋を見つけに行くだけだ」
「……なんで来たんだよ」
今日の目的は皆でウェイウェイ遊ぼうぜ、みたいなものではないことを七星は知ってるはずだ。
「暇つぶし。あわよくば女の子と出会うことだってある」
「あっそ」
七星はどうでもいいとして、今のところ桃井の作戦はうまくいってるように感じる。結局、俺は何もしてないわけで……なんだか昔と変わらないような。
小、中の時とかも俺を頼ってくれたことあった。でも結局、あいつはなんだかんだ一人で上手くやってしまう。
「なに話してんの?」
「あれ、お前来てたの……」
桐山胡桃は小宮グループの一員だったことを思い出す。
七星はよくわかってなさそうな顔で俺と桐山を交互に見つめる。
「お前ら、知り合いなのか」
「一年の時、同じクラスだったし普通じゃん!?」
若干、焦ったような声音で桐山は弁明する。その様子が余計に怪しさを匂わせる。だが七星は意外、とでも言いたげな顔をした。
「へー、そうなんだ」
「そうだ、桐山。小宮と初野はどうなんだ」
俺と七星の席からでは会話はよく聞き取れない。二人の表情を比較してみると、小宮の方は何気に嬉しそうで初野の方はそこまで明るくなく、若干暗い気もする。
あれ、普通は逆じゃないのか。
桐山は俺の質問に対してうーん、と唸ってからにこっと笑う。
「どうもないんじゃない。というか私、二人の話とか聞いてないからわかんない」
「お前、なにしに来たんだよ」
てっきり桃井のことだからここにいるメンバー全員に事情を話しているものだと思っていた。
七星ははぁ、とため息を吐いて立ち上がる。
「トイレ行く」
頭をぽりぽりと掻きながら部屋を出て行った七星。
一つ席が空く。
桐山は詰めて、というジェスチャーをすかさず送ってくる。
素直に従い、一人分座れるほどの空間を作るとそこに桐山はちょこんと座った。
少しドキドキしながら桐山の様子を窺っているが特に動きはない。
こっちから何か喋りかけようか思っていると、ドアが開く。
「胡桃、もっと詰めろ」
「帰って来るのはや」
「普通、これくらいだろ。な?」
その質問を俺にするのをやめろ。シンプルに答え辛いだろ。
どう返事するか迷っていると、桐山が席を立って反対側の元居た席へと戻って行った。
困惑する七星は、桐山の座っていたところに座り、ジュースを飲む。
「なんか邪魔したか?」
「どういう意味だよ」
桐山といい雰囲気だったか問われると、全くそんなことはなかった。それよりも今は初野のことが気になる。
このまま傍観したままでいいのだろうか。
「そんなことよりだ、小宮見ててどう思う?」
小宮が歌っている姿に合いの手を入れる初野。
これは俺の視点だが、少し違和感がある。
見ていると、初野は別に小宮のことが好きじゃないような。
「どう見えるって……」
七星は心底、面倒くさそうに二人を見る。
「なあ、どっちが好きなんだっけ?」
「あ?」
「初野が小宮を好きなんだろ」
「そうは見えねえんだよなぁ」
「……俺もそう思う」
それから結局、何か起こったわけではなくつつがなくカラオケタイムは過ぎていった。
そしてカラオケが終わったと同時に彼らは動き始める。