6話 告白の序章で
昼休み終了までまだ少し時間がある。
俺は屋上に初野舞花を呼び出し、待った。
隣にはどこかそわそわした様子の七星がいる。
「さっきは気分上がってたけど、冷静になったらそうでもなくなったような」
「おい!」
陽キャという共通点がある七星、初野の提示してきた条件には合致している。最初から小宮じゃなくてもよかったのだ。
それに七星は彼女を欲しがっている、正にウィンウィン。
「幼馴染なんだっけ? 神来と初野って」
「そうだな。一応」
「へえー、あまり仲良くなさそうだが」
「今、それは関係ないだろ」
「確かに関係ないな。でも俺は初野と付き合うわけじゃん」
さっきはそうでもない、とか言ってたが下心はあるようだ。
そうやって素直に自分の気持ちを見せてくれるとこっちとしてもやりやすい。
「確定じゃねえから念の為、覚悟しとけ」
「なんだよその言い方、こえーよ」
条件はあってる、指定した人物とは違うけれど。
妥協、いやこれは最善手だ。
逃げ、それはそうかも。
「にしても、初野って目立ってたよな。前まで」
やっぱり皆、そう思うのだろう。
「今は、不気味なほど静かだな」
「なんか知らねえの? 幼馴染なんだろ」
桐山から聞いた話では、部活でのケガが原因らしいが本人に確認取ったわけではないので本当かわからない。
ここは適当に話を流すことにした。
「今はもう他人だからな」
「その他人に男を紹介するってどうなんだよ」
「色々と事情ってものがあるわけだ」
「あっそ」」
最後の方はさして興味なくなったのか、七星は大きく欠伸をした。
その時、屋上のドアが静かに開く。
一人、ショートヘア―でスカートを履いた女の子がこちらへ近づいてくる。
さっきまで苦言を呈していた七星だが、初野が目の前に現れた途端、目の色を変えて背筋をビシッと伸ばす。
「喋るのは初めてですね。七星優雅です。これからお付き合いよろしくお願いします」
「は?」
「…………またフラれた、のか?」
こちらに視線を向け、「どういうことだ」とでも言いたげな目で訴えかける。
だから覚悟しとけ、って言ったじゃねえか。
「初野、七星はこう見えても小宮グループの一人だ。それじゃダメなのか」
「私は小宮くんを指定したの、グループとか関係ない」
そう初野がぶった切ると、七星が少し怒った顔で言う。
「小宮は今、誰かに告白してるらしいぞ」
「なんで現在進行形なんだよ」
「告白の返事待ち、答え次第では初野がどうしたって付き合うことはできない!」
七星は傷ついた心を修復しながら言い切った。
この言葉を聞いた初野だったが、真っすぐとこちらを見つめて淡々と告げる。
「知ってるよ」
「……あっそう」
七星はがくりと膝から崩れ落ちて敗北した。
肩の一つでも叩いてやろうかと思ったところ、初野が去って行く。
「話これで終わりなら私、もう戻るね。玲二、逃げないでよね」
ガチャっという音を立ててドアが閉まる。
「これで俺の恋は何連敗なんだ……」
「知らねえよ。そんな負け続けられるのもある種の才能だな」
よく陽キャグループにいられるな、と感心したがこんなメンタルだから居られるのかもしれない。
割と顔はカッコいいと思うのだが、如何せん中身が伴ってない。
俺たちも教室に戻ろうか、と動き出そうとするとまたも屋上のドアが開いた。
初野が戻ってきたのか、そう思ったがすぐに答えが出る。
「やぁやぁ、青年二人、恋はしてるかな」
桃井香織。
初野の親友だった人間。
何をしに来たか、細目で彼女を睨むとあははっと笑って言う。
「舞花って好きな人いたんだね」
「……桃井、お前さては聞いてたな」
七星が少し不服そうな顔で尋ねる。
「聞こえちゃった、が正しいよ。珍しく舞花が階段を上って行くから気になってさ」
ここは七星に任せて俺は傍観に徹してるのだが、桃井が俺の方に視線を向けて話しかける。
「小宮と舞花をくっつける手立て整えてやってもいいよ」
「まじで?」
「私も舞花と元の関係に戻りたいわけよ、あの時からずっと冷たくてね。小宮と付き合えば、多分元の鞘に収まると思うの」
それが目的で初野自身も俺にあんなお願いをしたわけだろう。
桃井に対して良いイメージを持っていなかったが、もしかしたら良い奴かも、そんな気もする。
七星はあまり乗り気ではなく渋い顔をしていた。
「どんな方法だ?」
「合コン、とかどうよ。舞花と小宮二人だけじゃ怪しまれるでしょ? だから皆で遊びながらフォローを入れて二人をいい感じにする。最後に、二人だけでっていうシナリオ」
ベタだが、今日明日にでも実行できそうだ。作戦の内容もシンプルで成功率はそこそこにあるだろう。
だが一つ引っ掛かるのが小宮が告白してる相手は誰なのか。
「小宮って誰に告白してるんだ」
まず七星の方に向いて聞くが、首を横に振った。
「教えてくれねえんだよ、多分桃井も知らねえ。そうだろ?」
「うん、知らない」
「じゃあ早く決行した方がいいな」
スマホをポケットから取り出して初野に連絡取ろうとすると、それに気づいた桃井が声をあげる。
「さっき舞花に予定聞いた。オッケーだってさ」
ここまでついてきたのだから、初野とすれ違ってなければおかしい。でも聞くところによれば桃井と初野の関係性は崩れていたはず。
いや、そういうことではないか。
ただ単純に、初野は小宮と付き合う為に桃井と接触しただけ。
そう考えると、辻褄は合う。
「ちなみに女サイドは誰呼ぶんだい。当然、可愛い子ちゃんも来るよね」
「七星、あんた来るの?」
「え、置いてくつもりだったのか」